元は世界は光のみであった
言うなれば精神世界、創造神にとっての脳波の世界
そこには生命なるものはいなかった
概念的な、はたまた電子信号的な存在が漂っていた
やがて楽園(神の脳)が形作られ、さまざまな情報を取り入れてきた
楽園はその都度形を変えて、神にとって都合の良い世界が形成されていった
やがて神は、一つの世界をその場に生きるものに全て任せてみようと“世界”を作った
『物質あれ』
そうして世界が作られた
世界は闇に包まれていた
全ての素材が散らばっていた
そこは混沌であり宇宙であったからだ
『光あれ』
そうして天界が作られ、世界は照らされた
結果世界が照らされ、世界の影が生まれ、魔界も出来た
『命あれ』
そうして大天使が生まれ、世界は潤い、動き始めた
後の工程を全て天使に任せて、神は「外」から見守ることにした
やがて大天使は命を増やした
仲間を増やそうとしたのだ
神から与えられし情報の元
『命の木』を作り始めた
やがてそこから実が成り
中から天使が生まれ
世界は『聖なる力』で満たされた
強い光に当てられ、強く濃く浮き出ていった影は『大蛇』となって地を這っていった
やがて天使は世界のための光を一つにまとめ『太陽』を作った
ちなみにこれに基づいて
物質:月
光:火
命:水
命の木:木
聖なる力:金
大蛇:土
太陽:日
とする。(辻褄合わせのため強引であるっ!)
楽園はやがて想像できる極楽を全て持った世界になった
天使はこの時点では姿を持ってはおらず、ただの概念、電気信号、光の塊の様だった
それでも各個人は意識があり、各々“生きて”いた
全てを持った楽園だったので、何も起きない平凡な時間が流れていた
やがてたくさんの天使のうち2人の天使
-“異界の神話”になぞらえて「アダムとイブ」と呼ぼうか-
アダムとイブは我が子をその木に宿した
「命の木」に一部切り傷をつけ、2人の意思の一部を天女の糸で紡いだ布に包み、切った部分に押し込む、すると数分もたたずに樹液が布を包み込み、それを種のようにしてやがて木の実が生る。
そこからしばらく時間をかけるとやがて実が熟し、へたの部分のりんごの花が咲く。その時が収穫および生誕の時、親が実をもぎ、“抱える”と実は花びらの様に瞬時に開き散る、その中央に天使が眠っている。
それが天使の生まれ方であった
天使の実が育ち、小さな花が蕾をつけた時
悪いことに世界の影である大蛇が2人に寄ってきていた
アダムとイブは無論蛇を殺そうとした
しかし蛇は一言呟いた
「あの実は、食べられるのだろうか?」
アダムとイブは言葉を“聞いて”止まった。それはほんの少しだけ“思って”いたからだ
気がつくと蛇はいなくなっており、代わりに自分の“足”元の影が己に語りかけた
「かつて神に与えられた知識の中には、木から生まれる実は食べられるものであると」
「何処かでみんな知っていたわよね?」
二つの影は言葉を交わす
「どうしてみんな食べようとしないのか」
「こんなにも頬張りたくなる様な形をしているのに」
「口が無いから?」
「喋ればできるよ」
「味を知らないからじゃないか?」
「我が子を手にかけるのが嫌なのか」
「誰かがやらねば知り得ない」
「気付いてしまった。知りたくて仕方がない」
「私が」
「貴方が」
「確かめてみよう」
やがて言葉は2人の“口”から溢れ、アダムはまだ熟しきっていないその実を“手”でもぎ取り、その口で頬張った
我が子を喰らうアダム
それを見つめ記録するイブ
影の中で囁く大蛇
全てを大天使は見逃さなかった
けれど止めることは出来なかった
天使を喰らったアダムは『体』を得た
結果天界からするりと落ちて、宇宙に投げ出された
やがてアダムの体はその温度に耐えかね、石と化し、アダムは“死んで”砕けていった
イブは嘆き悲しんだ、その悲しみが影を強くした
一方瓦礫と化したアダムは、その質量の多さから宇宙空間にて“引力”を持つ物体となっていた
やがて宇宙の混沌となるチリや物質、隕石などが引かれ合い結合し、熱を作り火の玉と化した
大天使はイブと大蛇を早急に捉え、牢屋に連れていった
その時に“精神界”は作られた
イブと大蛇は常に精神界にて一緒だった
大蛇はイブを慰め、イブは後悔と悲しみに暮れた
アダムと共にした喜びを思い出し
どうして止めなかったのかと怒り
あの人だけ殺してしまったと悲しみ
この後大天使は私をどうするのかと恐れ
もう一度彼の元に、と愛を噛み締め
大蛇の悪意を借り
一つの欲望を手にした
イブには魂魄が生まれていた
イブには知恵が芽生えていた
イブは「生きる者」となっていた
大蛇は魂の影となり、イブが外に出れる様に手助けをした
イブは天界を抜け出し、宇宙に飛び出し、世界に堕ちていった
宇宙に浮かぶ巨大な石の塊は、もうすでに表面が冷え固まっていた
イブはその地表に叩きつけられ弾け飛んで“死んだ”
引力が働き、散ったイブはその飛沫で石を包み込んだ
やがて湿った石は大地を生み出し、水で溢れさせ、その石に命が宿り始めた
大蛇はイブから離れ、天界の逆の場所、魔界にするりと帰っていった
やがて魔界という本来の我が家に帰った大蛇は眠りにつき、その身を煮えたぎる沼に変えた
アダムは石化し、イブが命を注ぎ、大蛇がその地を這いつくばり、その石は星になった
星には数多の生命が生まれ始めた
生命が死んで、アダムとイブの様に
石を持つ魂と、彷徨う魂が生まれた
大天使はまたも救えなかった
哀れに思った大天使は、地に落ちた魂が天界に還る様にと世界を組み直した
哀れな魂は天界に還り、巡り、また星に命を落として行く
石を持ったものはアダムの罪を償う様にと
魂を運ぶ手伝いをする者“死神”と名付けた
やがてその星は後世にて「地球」と呼ばれた。
地球には様々な生命が生まれた
天使や死神はその生命にあった姿を取ってきた
野生動物の中でも、業を積んだ者や悪意ある生き物は天界に還らずに魔界に落ち、やがて沼から“悪魔”を産んでいた
けれど世界バランスは崩されなかった
宇宙から物質が降り注ぎ、生命が無惨に潰されようと、天候が崩れ全てが氷漬けにされようと
命は尽きることなく巡り、天使も死神も悪魔も、その時その場に生きるものに合わせて生まれ、そして共に散っていった
唯一大天使のみ、姿を変えずに全てを見守っていた
ある時火を恐れぬ生き物が現れた
火を恐れぬ者は道具を使い、やがて肉を焼いて食っていた
無論“調理”をする生き物はいる
四つ足の獣だって発酵させて食うこともある
芋を洗う個体も居るし…
火災を利用して実を割って食う翼のある獣もいる
しかしこの個体は火災から火を棒に移して使っている
石を砕いて木の屑に着火させたりと…火を物にしている
やがて見ていくうちにこの個体は複雑な言葉を発し、壁に何かを残している個体まで増えた
一番興味深かったのはその生き物は
イブと同じ魂の形をしていたということ
つまり魂魄、感情の起伏が激しかった
縄張り争い以上に発展する殺し合い
家族以上の仲間意識
憎悪、愛情、欺瞞、希望
なんともわかりやすい、なんとも俗に満ちた魂
その魂は重く、ほとんどが現界に止まるか、魔界に堕ちていく
その命を救うため、新たな天使は皆、その生き物の姿で生まれていった
その生き物は後に「人間」と呼ばれた
やがて人間という生き物と
人間の姿形、意識を持った悪魔、死神、そして天使が続々と生まれて行った
「私」もその1人だ
人間は莫大に増え、その土地を埋め尽くしていく
記録を取るように壁に“文字”を書く
私はそれを真似て、『これ』を書き記した。
大天使はそれを喜び、今まであった出来事を私に伝え、書き記す様にと私に命じた。
この書を書き記した後に大天使は“産み直し”を試みた
今この天界には獣や植物、地球に住まう全ての生命に合わせた天使でいるが
やがて「人間」で埋め尽くされ、人間の姿で舞う天使がこの世を担うだろう。と予言された
新たに生まれる天使は皆人の姿
朽ちることの無い大天使には姿などなかった
故に“産み直し”する必要があったのだ
大天使は一度死に、天の布で全てを包み
命の木に与えた
大天使は3日で産まれ直された
無事産まれたのだ
子供故記憶が曖昧なだけで何一つ問題はない
大天使の記憶は私「ガブリエル」が記録している故
大天使として目覚めるのに時間が掛かろうが問題はないのだ
産まれ直した大天使は「ベロニカ」と名付けられた。
大天使のかつての記憶はまだ、眠ったままである。