私は、一つの名家に産まれた悪魔 名家といってもそこまで大きい訳じゃ無かったけど、ここいらでは名を知らぬ者は居ない程の家だった ママからは魂の食べ方を教わって、パパからはいろんなお話を教わった 召使からはマナーを教わって、私はまるでお人形さん 「ミモザはどんな力が得意になるのかしらね!」 パパとママは楽しそうに言う どうやら、私の能力の特殊性でこの家の地位が決まるみたいだった その事を知ったのは、私の能力が“無い”と判断した時だった この歳になれば…周りの子らは方向性を見出していく 腕の力が強かったり…氷を扱ったり…精神攻撃だったりする パパは何にでも変身できて、ママは即時移動持ちだった 私は何もなかった みんなが個性のあるカラフルな子であるならば、私は白と黒だけ 何も無い。そこに居るだけ 勿論パパはがっかりした、ママも肩を落とした 私を“学校”とかいう“出来損ない”が集まる施設に放り投げて、パパとママは何処かに行っちゃった 何もわからないまま、この見窄らしい施設で生きていかなきゃいけなかった “悪魔契約”のための基本から、魂の狩り方、物理武器の扱い方なんかを学んだ 勿論私はお人形さんの様に育てられたから、筋力なんてものもないし、勉強らしい勉強もさせてもらってないから…学年でも底辺だった 許せなかった 親の都合で育てて、不必要なら捨てる 悪魔としては最適なのかもしれない でも捨てられた方はたまったもんじゃない 勿論家汚しなんて言われた。出来損ないの人形だっていじめられた。 疲れた どうしようもない理不尽な怒りに身を任せて、もう一度沼に落ちたら…産まれ直せるかな…?と悪魔らしくない思考に辿り着いた その事象ですら、私の出来損ない感を強くした 学校を出て、近場の沼へ行く その道中変な噂を聞いた “悪魔が、悪魔を捕食した” …どうやら巷で噂の“アルデバラン”とやらが無差別に悪魔を食い荒らしているそうだった そういえば考えたこともなかった 悪魔を食べたら、どうなるんだろう… …自分が死んで産まれ直せるかわからない状態より、凶悪で純粋な興味の方が勝った 誰を殺して食べようかな いじめて来た奴にしよう 弱そうなあいつ、ただイキってるだけのあいつ 私に殺せるかな?大丈夫だよ、失敗したら不出来のゴミになるだけ どうせ殺されるんだ。 パパの教えてくれたお話と、誰も使わない図書室から、魔術に関する情報を得る 一番簡単な…悪意逆転の術 受けた悪意をそのままご本人に返すだけ 後はあいつをおちょくって怒らせればいい そうすれば自滅する。 初めてドキドキした。ワクワクした。 学校がとても楽しくなった とある日、学校の裏。誰も来ない深淵の森の入り口に、私はあいつに呼び出された あいつはとてもイラついていた 私が笑ってたから、余計に沸騰していた 誰もいない。友達も仲間もいない 1人で待ち構えるあいつ 術式は完璧に発動できる うふふ 最後に猛烈に煽り散らかす 「殺してやるよ!!」素敵な言葉 さぁ 来やがれクソ野郎 その身に余る悪意の波動は、我が魔法陣に触れ全て跳ね返し、あいつの体を突き破った あはは!面白い顔! 助けを呼んだって無駄でしょ?貴方がこの声の届かぬ森へと呼んだんだから 前座は終わり、さぁ…さぁ! 魂を奪う時の、学んだ力の込め方をして あいつの魂に触れる 震えてるの?愛しいね…くだらないよ 乱暴に引きちぎる、体が跳ねる 楽しいわ!!!魂を引き剥がした肉体ってよく跳ねるのね!うふふ… じゃあ、いただきます! おいしい あぁ!なんて味なの!!? 人より濃厚で…お腹に溜まって、私の糧になって…なんて素敵! どうしてみんな、悪魔を食べないのかしら? こんなに美味しい事がわかっちゃったら、みんながみんなを食べちゃうからかしら? ふふ…そして不思議な事がもう一個 何もなかった私に、個性が一個 元々こいつは炎の刃を繰り出してた それが…私にも出来る様になった 勿論調整は必要だけど…基礎知識は頭の中に入って来た …私の能力は皆無な訳ではなかった 捕食した悪魔の力を自分のものにする事が出来たのだ! やがて炎の様に燃え尽きるあいつの体を眺めながら、私は愉悦感に浸っていた… それから、バレない様に食べる事だけを目的に過ごしていった あの子がいいな この子はいらない あの子が欲しい この子はゴミ “友達”となる子はみんな、唯の“食材”に見えた 憧れる“能力”はみんな、“次に欲しいもの”になった あの子を摂取、この子を摂取 どんどん強くなる。 どんどん味を占める おいしい魂、素敵な魂 全部全部私の物 やがて酷い吐き気に襲われた 食べ過ぎたのかしら?能力の競合が起きている 仕方ないから…使えない力は吐き捨てる ここまで来るともう、能力の選別なんかは余裕で出来た 吐き出した黒い液体は、まるで細かい花の様に散らばった 私が捨てた力が、美しい花になるのは腹がたった、だから踏み潰してぐしゃぐしゃに消した 大きな口の子を食べた時、流石に子供が減っていると気がついた先生は犯人探しをし始めた 勿論簡単に、所有している魂の量が莫大に増えてる私だとバレた 無言を貫いた、呼び出しをくらった 怒られる?そんなことはどうでもいいの 先生が一堂に集まる、私を責める様に囲む もっと、もっと 全員私の所に集まった いただきます 大きな口は全員を飲み込んだ 流石に消化するには時間がかかる…胸焼けが凄い… それでも吐き出さない様に…全部の魂を摂取する 中で暴れる先生には、逆転の魔法を 燃やしてくる先生には、脱酸素の力を 悪意でこじ開ける先生には、有り余るだけの祝福を… やがてお腹の中が静かになる 選りすぐって、要らないのは吐いて踏んで より一層強くなった私は…学校を侵略する 魂だけ食べて、貰って、いらない力は吐き捨てて、欲しい力だけ摂取する バリバリ、むしゃむしゃ、バキバキ、ごくん やがて学校は空っぽになる 静寂。 …さみしい。 でも私は満たされてる、これで十分じゃないの? 誰もいない さみしさ、いらない 吐き捨てられない感情に、急に恐怖が優った …お家に帰ろう もしかしたら、これだけ強くなった私を見て パパもママももう一度受け入れてくれるかもしれない… 帰り道はわかる。お家に帰ろう さみしいの、もう一度、私を抱っこして パパ ママ 召使 …そして、知らない子供 私のお部屋、知らない子供の部屋へ 私のお洋服、知らない子供の服に 私の居場所、知らない子供が居るの 皆みんな、知らない子供を愛でている 知らない子供、素敵な体、素敵な魂 私の物なのに、私の場所なのに、私の… わたしの … これで、全部私のもの 知らないあの子はもういない あの子の力、私のもの 霊体の幻覚、私のもの …私の友達を作ろう、これなら寂しくない 召使は使えない、上位互換が中にいる パパのはいいね、綺麗な私になれる ママのも素敵、どこにだって行ける さみしい?いらない、わたしたちならどこへでも行ける 「…さ、独り立ちだよミモザ。人間を狩りに行きましょう そうね、私の騎士様。もっと食べて強くなるのよ」 独り言じゃない独り言が空を舞う 私はミモザ、悪魔の花 沢山養分を吸って、綺麗に咲くの いつか、噂の悪魔だって食べてやるわ ほら、人間が呼んでいる あなたのたましい、私が食べ尽くすわ