夢日記「子猫の叫び」か ★21世紀_全体まとめ06_ 夢で出てきた子達の話 を参照推奨 寒かったあの日 あの日私だけ生き残ったのだ いつものように起きて いつものように跳ねて いつものように食べて いつものように走って いつものように寝ていた 子猫の私にとって、あの日が初めての氷点下だと知らなかったのだ 今まで生きていた微かな時間が全てだった だから本来ならあそこで死ぬ命だった いつもではない寒さに いつもではない出来事 あの日あの時私の寝床に迷い込んだ少年 あの子が居たから、私は生き延びた あの子が居たから、新しい夜を知った 私が居たから、あの子はあの場に留まった 私が居たから、あの子は凍え死んだ。 その出来事が、私に“想い”を産んだ ただの子猫だった私に“心たるもの”を産んだ 大きくなってから、何処かで“読んだ”本に書いてあった 悪魔が魄(タマシイ)を奪う けれど魄とは“裏切られた時”に生じるのだと 人の命を奪われたくないからとて猫を騙して悪魔の居る道に進ませた、故にその猫はもう魄のある者であると… 魄とは人に宿る思想そのものだ 命の器である“魂”と 強い感情など全部混ぜたその者たるを示す“魄” いわば生者の感情の力を生み出す思考 死者の残滓 故に犬や猫は魄などない 考える事はあれど、何かを呪うといった思考も生じないし、愛おしく愛でる愛もない …無論、我が子や家族を愛する事はあるさ けれど弱肉強食の世界に、弱者を想う余裕など無い。この話においての重要点はそこでは無い。 “対象を呪う”という想いの力は人にしか無い だから我々動物には魄がないのだ。 けれど、裏切られて、我々は魄を得る それが本当であるならば そうして私が“魄”を得てると言うならば きっと恐らく“裏切られた時”だけではない “想う事”がれば魄は生まれるのだ この想いはきっと呪う様なものなんかじゃ無い 『私が居たから、あの子は死んだ』 『だから、彼に謝りたいんだ』 だた。それだけ。 それだけで私は魄を得た。 魄を得ても、私は猫として生きた 15年の長い時間、今思えば短い一生 この村で生まれてこの村で死んだ 明確にわかる、命の堕ちる感覚 そしてやっと気付く、あの時死んだ事 地の底は温かく私を包み込む 本当ならばこのまま溶けて消え失せるのだろう…けれど私は異質だった ぐんと引き上げられる 瞬時に理解する。私は産み直されている 形が自在に変わる、何にだってなれる 何にだって…なれるのなら… 彼を探して、謝れる姿でいたい。 人の姿と言うのは何かと便利で 悪魔という種族も何かと便利だ 情報はそこらを走り回ってる低級悪魔から聞き取れるし、この村で召喚された悪魔から色々話は聞けた そしてその悪魔は仕事を終え、命を食って行った 食料が命というのは中々難儀だが、よくよく考えれば昔と対して変わらないだろう だが抵抗感はあった だから私は昔と変わらず、小さな四つ足の獣を食べていた 時々転がってる魂を食べてはその美味さに驚愕する けれど人を狩る気は無い そもそも自分より大きい獲物を狩ろうとする意識が無い だから私はここで悠々と生きていたのだ 話によれば魂は戻ってくるらしい あの少年は戻ってくるだろうか?戻ってきたとて私はわかるのか、私だとわかるのか わからないならそれはそれでいい 「退屈だなぁ」 人の声で放つ私の言葉は空を舞った。 「あの」 青年が声をかけたのは、生まれた子が子を成し、老人となって死んで、その子も立派な大人になる暗い時間がたった頃だった 振り返ると青年は真っ直ぐ私を見ていた その目はなんだか懐かしいような、私のような、なんともいえない目であった 「君」「貴方」 『何処かで…?』 声が重なった 少年というより生き別れの私、兄弟のような彼は…不思議な魂をしていた 近寄りがたいが…興味を示す…不思議な魂だ 私と声を重ねた事に照れる彼 「すみません…私、祓人をしておりますダニエル、ダニエル・シュタムラーと申します! 何かここらで悪魔関係で困ってる事はございませんか?」 …満面の笑みでそう伝えた青年 なるほど、近寄りがたい理由はそこであったか どこかの悪魔から聞いた『祓人』 悪魔の敵、悪魔を殺す人間である 本来なら逃げた方が良い相手…けれど… 「…少しだけ、気になってることがあるの 聞いてくれます?」 賭けてみたいと思った 「!ええ!力になれることがあれば是非!!」 話してみたいと思った 「では、お話ししながら少し歩きましょ」 彼なら、見つけてくれるかもと思った 例えそれで、私が殺されても…彼には残ると思った 私によく似た目をしているもの。 …その意識がずっと残ったまま 私はこのアルプスの山々を眺めていた あれから見つからない “猫をやめて”探してもいなかった …これについて、君はどう思う? 村を抜けて人の少ない所、けれど見通しの良い道 故郷の山は冷たく風を運ぶ 青年はずっと話を聞いて黙っていた …わかってた。 彼は途中からずっと凶器を持って話を聞いていた 私を…悪魔を刺し殺せる物を持って、ずっとついてきてくれてた いつでも殺せたはずだった …でも最後まで聞いて、最後まで黙り込んでいた。 「…ふふ、貴方の分野だと思うけど…」 「…日本に」 「?」 「日本の友に、同じように悪魔になった猫を持つ祓人がいるのです」 「…」 「彼も彼女も…“悪魔”と呼ぶには相応しくない状態だった、彼らは今、僕らと共に祓人をしています」 「…そう…?」 「そして貴方も、僕から見たら、悪魔だとして祓うのは間違ってるように見える」 「…」 「貴方のその思いを救いたい、貴方の探すその少年を見つけて…貴方の無念を晴らすことが…私“祓人”が出来る「貴方の悪魔祓い」になると思うんです」 …驚いた 悪魔を軒並み祓うんじゃなくて… “私を救う事”が悪魔祓いだと言うか… 「……それで、この少年の事。何か知ってそうな事とか…あるかしら?」 「…ごめんなさい…それはさっぱりわからないですけど…」 …もし彼があの子であれば…簡単な話だったのにな…とも思ったが、もしそうだとしたら …私はどうしてたんだろうな… 「わからないですけど、一つ言えるのは…貴方は悪魔だ。 ここにこのままいれば…別の祓人が話を聞かずに貴方を殺すかもしれない…そうしたら全てが無意味になる 貴方の思いも、少年の思いも、僕のこの気持ちも…」 「…そうね」 「だから…僕と一緒に行動しませんか?」 「…え?」 「僕は祓人です 前世の記憶も保持してるし…生まれ直しても貴方のことを忘れない、そしていろんな世界に旅立つ事が出来る だから世界各国どこまでも、探しに行けるんです…!」 「…ずっと…私を同じ時間で探せる…?」 「そうです。それに僕ら祓人は魂還者と共に行動する事を許されてるんです、認証通ればだけど…だから…」 「…貴方の飼い猫になれば、安心した寝床は用意できるって事?」 「ヴッ…!!!飼い猫…というか…飼うって表現は好ましくないけど…」 「…ふふ…いいわ、貴方が私をどう扱おうが、私はあの子を探す あの子を探す手伝いをしてくれるなら、私は貴方のお仕事の手伝いをしてあげる」 「…なら…!」 「ふふ、私元野良猫だからね?ちゃんとリードつけときなさいよ」 「ワッワッ…そういう趣味じゃなく…ぅう…えっと…」 …何を照れて困惑してるのかわからなかったけど、彼は手伝ってくれるみたいだし、私はまだ生きてて良いみたいだ 例え利用されて路上でのたれ死のうと…彼ならいいかな…と思えた 「ふふ…じゃあ、私を救ってね?ご主人様」 「ぅう…猫…彼女はねこ…か…あ、そういえば君…名前は…?」 「名前…えっとね…」 沼から出た時、他の悪魔から呼ばれた時 脳内に微かに漂っていた名前 「ダリム。そう呼ばれてる」 「…わかった、ダリムさん、これから貴方を救ってみせます…!」 名を認識しあった時、彼と私は別人で、協力しあえて、「ダリムとダニエル」との関係性になれた気がした 彼にごめんねを言う事が近くなったような、遠くなったような…不思議な勘が働いた 探しきれなくとも、彼といれば…何かと思いは返せそう そこだけの確かな考えが、私を祓人へと導いた。 願わくば…彼の魂に祝福を。