※敬称とか呼び方とか喋り方は“現代”に寄せて書いてます。 調べてもわからん… 方言は変換サイトを使用しております。 ⚠︎後半部分に地震系統の被災表現を含みます。
始まりの村
昔むかしあるところに、群れから離れた一匹の狐がいました。 けれど狐は一匹では生きていけず、そのままのたれ死んでしまいましたとさ。 なぁーんて事だったらきっと、こんな目には合わなかったんだろうなって、私はずっと考えていた 母は弟を連れてどこかへ行ってしまった 違う、大きな鳥が弟を狙って飛んできた。 助けに行く余裕はない、一目散に散った 弟は母の近くへ逃げた、私は木々の方へ逃げた 鳥が私を見た。恐ろしくて足がもたついた 瞬間、足場が崩れた、それが見えたかわからないけど、母は弟を連れてすぐ走った。 鳥は私を捕まえようとした。 けれど私はもっと下の地面に転がり落ちていった。幸い下は鬱蒼としてたから、鳥は諦めたようだった 必死に鳴いても、母の声は聞こえなかった 生存確率が高い方を選ぶのは正しい事。 自らが生きる為、他を見捨てるのは正しい事。 かつて私達が、引きちぎられた父を見捨てたように… でも私は生き延びてしまった。仕方ない… これだけの血の匂いだ、すぐ何処かへ離れないと別の獣が襲ってくる。 安全な所などない、けれど何処か隠れられる場所を見つけねば… 私は急いで、山を降りた …やがて山を降りた先は、“人里”だった 当時はそんな言葉も知らずに、生き物の巣として見ていたが 母から警告されていた。あの毛皮のない生き物…“人間”は危険だと 何がどう危険かは教えてもらえなかった。見たところ鳥より遅い けれど器用だ。前足?で物を掴む 毛に見えない毛皮は多彩な色合い。自己主張が激しい種なのだろう ふと、お腹が空いた事に気がついた。そういえば今朝から何も食べていない。食べ物を探している時にやられたのだ 血も出ている、足も捻ったみたいで痛い 下手な動きをすればきっと、人間に食われる 注意していなければ…確実に狩られるだろう …そんな事を考えている時 人間が鳴き声を上げている、威嚇か? 木の棒の様な物を振り回して、何かを追い立てている あれは。…あれは!!! あまりの空腹に、人間が追い立てているそれに飛びついた “ねずみ”だ!!そんな名前が付いていたとは知らなかったけれど 生きの良い食事だ!ありがたい…! …ふと、目線を上げると日陰にもっと居るのがわかった 御馳走だぁ!!! 何も考えずに飛び込んだ ねずみは一目散に逃げ回った、その時に人間の鳴き声が聞こえてはっとした 忘れてた…!!ここは人間の縄張り…!!! 噛める分だけ口に含み、慌てて外に出て山に逃げる …追いかける気配がない。振り返ると人間はぼーっと私を見てた …何か鳴いた。前足を降っている。そして日陰のその上の空間に帰って行った …敵意はない様だ。だが長居は禁物だ 物陰に隠れる様に逃げ、ありったけの食事を摂った 少し、観察してみた 傷を治すついでにだ。決して暇なのではない 人間は顔で感情を伝えるらしい。私に向けた顔はきっと、好意を表していた ねずみに向けていた顔は殺意か…いや怒りか 同じ様な顔を、恐らく子供にも向けている その顔をされた子供らはみるみるうちに元気を無くす。 鳴き喚いているのは悲しいのだろう。こんなにわかりやすいのか… きっと感情を悟られると逃げられない。なんて事が無いんだろう 私は目線一つで逃げる道を悟られる。獣はそれを逃さない。 他に興味深いのは…私の食べ物を人間は嫌う。 多分ねずみは、人間が蓄えている物を食うのだろう。 しかし人間はねずみを食わない。だから追い立てる事しか出来ない。弱肉強食の世界が成り立っていない… ならば…私が食べても問題ないのでは? 進行状況を見て…ねずみに向かって飛び込む …今回は人間の動きも見てみる あれは驚きの顔、あれは…楽しい時のだな… あれは… 「 」 …聞き取れない、けれど多分昨日と同じ鳴き声だ。…あれは…好意 …1匹が不審な顔をした。私に近付く!!! 飛んで逃げると申し訳なさそうな顔をした 何をする気だったのか…やはり食おうとしてるのか… 何かを鳴いた個体が“怒る” 不審な個体は“悲しむ”… …変なの とりあえず撤退だ…もう少し見てからにしよう…! 振り返ると、皆好意の顔をしていた 「 」 「 」 聞き慣れない鳴き声…一体いくつ音があるんだ… でもひとつ覚えた、きっとあれは好意の言葉 「ありがとう」 そう鳴く時はきっと、敵意はないはずだ。 しばらくの間、耳を澄ましながら追い立てられるねずみを食べた 「またきてね」 「ありがとう」 「こんどもよろしく」 だいぶ聞き取れる様になった その中で一定の決まりがあるのであろう声を見つけたのだ 「きつねさん」「きつね」「きつねくん」 …これらの鳴き声は、私に呼びかける、または私がいる事を他の連中に知らせる時に発する様だ。 きっと、私の名前が”きつね“なのだろう そう、よく聞くと「ねずみだ!」「ねずみがでた!」「ねずみめ!」とも聞こえたのだ なのであれを“ねずみ”と覚えた 私が直接ねずみを食べに行くと、人間は喜んだ。好意だと思っていた顔はきっと“笑顔”と呼ぶ。今ならわかる 時にはねずみが居ない時もある。その時は人間が私を呼び止め、何かを持ってくる 果物だったり、乾いた肉だったり… 恐らく人間が食べる物の残りを渡す事もある…いいのか…?それは… 近頃は隠れていなくても、堂々と道を歩いていても気にしなくなった。 時々子供が来ては触ろうとするのが怖いくらいだが… …もう少し見てから…少し待ってみよう… そして人里の真ん中を歩いて見た結果色々わかった ねずみが食ってる“米”は人間がわざわざ育てて、採って、保存して…そこから一部使って…恐ろしくて仕方がない“火”を使って…そしてやっと食べるものなのだ それを横取りされたらそりゃあ嫌なわけで…ねずみだけでなく、小さな虫も嫌悪対象らしい。 私は私が食べたい物を食べる。すると人間は喜ぶ。なんならそんな大事に食べている“米“ですらくれる時もある 生き物とは違った暖かさ。ほんのり甘い。不思議な物だ。私はあれが気に入った けれど催促はしない。ねずみと同じ道を辿る事になる。 人間の害となる物を食えば、やがて貰えるんだ、覚えた。 ここは食べ物が豊富だ、生きるのに困らない。良い穴場を見つけた! ある日、きっと私は油断してた あの時とは違う大きな鳥に襲われた 爪で引っ掛れ、嘴で突つかれ、ふわりと浮遊感がしたと思えば、地面がとても遠かった 死ぬ 覚悟を決めた時、人間の子供の鳴き声がした 鳥がぐらついた。人間が何かを投げている 痛い!!石だ!!どうして?! …違う!!鳥に当てようとして…!! …見事命中、鳥は私を落とした …落ちどころが悪かった…眩暈がする、意識が遠のく… 人間が寄る…私を呼ぶ………何故…? 暖かい 気がつけば…ここはどこ??? 毛皮?何かに包まれている…人間の香りに包まれ… 血の気が引いた ここは人間の巣だ!!! 逃げなければ!!巣穴に連れてかれた!!! …けれど足が動かない、痛い、痛い!!! 「…!きつねさん!!」 人間に気付かれた!おしまいだ!!! ………? 何をしてる? 毛皮の様に、包まれた 頭を…?押さえられてる? 毛繕いとは違う。食べる為に押し付けてる訳もない …?……あっ!! 人間が、大人が子供にやっていた行動だ! 前足を使って、頭を擦る… ……眠くなる…これは…?? …敵意はない様だ… よく見ると、私の足や腹に何か巻かれてる 私の血が見える、けれど溢れる感覚は無い 暖かい ねむい …いいか…体も痛いし…鳥に食われるよりは…このまま…人間に食われ… …なんて事は無く、人間は私を巣の中に置きっぱなしだった 寝ていれば目の前に水とご飯、傷を巻いてる“布”を外しては新しいのに変え、古いのは水に漬ける。そして木の板に擦り付ける… 最初に驚いたせいで気付いていなかったが、私の体臭が人間の香りになっている なんだか毛先も軽く、虫がついていないので痒くも無い 時々顔を舐められる様に濡れた布で包まれるのはきっと毛繕い、人間もするのか…下手くそだ そして…”撫でられる” これが心地よく、まどろんでいく… 以上のことを踏まえると…きっと人間の子供は私を助けようと石を投げた 落ちて意識を失った私は人間の巣に連れられ、同じ香りを付けられた きっとこれは、私をこの群れに入れる為の行為だ。仲間だという証明。 ここで生ていく一員として認められたのだ! 昔向かってきた子供も、今は優しく撫でる 撫でられたく無い所は軽く怒るとやめてくれるし、今後触る事はない ご飯は柔らかく、暖かい。巣所も…ふかふかで… 決めた。私ここで生ていく。 人間と共存してく、きっと危険なんかじゃない わからなかったから、怖かっただけ 私は人間を、家族にした。 傷が治った!ねずみが増えている! それを食べるのがウチの役目!でしょ!!? 獲ったねずみを誇らしげに掲げると、人間は大いに喜んだ いつのまにか、自分を呼ぶのを「ウチ」という様になってしまった。勿論撫でてくれた彼女が使っていたから…移ってしまったのだ 悠々と歩いていく、出会うたびに声をかける、これは挨拶だ 気分がいい人の所に向かえば、ご飯が貰える だからと言ってねずみ取りを疎かにしてはならない。ご飯抜きにされてしまう!! ああそうだ!驚いた事といえば、人間は暖かい水に浸かる 最初は溺れてるのかと思って慌てて駆け寄ったら、掴まれて暖かい水をかけられて!謎の何かで体を擦られ!またかけられて!!沈められたのだ!! 泣きそうになった!!でも撫でられたので落ち着いたら…ゆったりとし始めた 体が暖かい。こうして暖をとっていたのだ… よく見ると擦られたものは人間も使っている。少し香りが強くて気に食わないが…きっとそれが群れの証なのだ。同じ香りがする こうして人間の香りを更新すると、乾いた布で毛繕いされる、体が乾くと毛皮がふんわりするのだ!驚いた! どうやら人間も同じ様で、頭だけの毛がふさふさする様だ! お返しにウチも毛繕いしようとしたが嫌がられてしまった。そういえば人間は口でしない。きっと必要無いのだろう その代わり、不思議な板の前で毛を整える。 “鏡”というらしい、そこには人間と同族が写ってる。 ウチ以外の同族が??!?…と焦ったが、鏡の奥の同族はウチと同じ動きをする それどころでは無く、ウチを抱えている人間も、同じ様な動きを…ひっくり返した様に動く。 …水の中に同族がいる時があったが…恐らくそれは“私”だったのだ… こうして己を映して見て…毛を整える ウチも真似て見たが、混乱してきた… そんな驚きを沢山使う人間… ただ歩いていれば事あるごとに撫で、ご飯をくれて…一緒に寝て… 見れば見るほど不思議な生き物だ… 後ろ足で立ち、前足を使う。 ウチはあんな作りでは無いから…ウチから撫でる事は出来ない… 毛繕いも出来ない…ウチができる事はねずみを追うだけ… いいな…あの前足が…“手”と呼んでいるあれがあれば…もっと人間と仲良くできるのかもしれない… 同じ声ならば…同じ姿ならば… だとしたら、ウチもねずみを追う事しか出来なかったか!残念! 冬が来た 寒くて寒くて仕方がない時期 ウチの毛皮もふっくらする様に、人間の取り外しができる毛皮もふかふかになった ウチは体温が高いからか、冷えた手でしょっちゅう触られる 冷たいのは嫌いだが…人間なら仕方がない… 米は枯れて、実も少ない…ねずみもあまり出ない…食を蓄えなくてはならない …けれど人間は頭がいい!いっぱい米を蓄えてる。そしてウチは知ってる この場所に他の獣を寄せてはならない事 「ここをよろしくね」 “よろしく”つまりそれは私の仕事、部外者から食品を守るのだ そして一定時間で帰宅してご飯を食べる 寒いので暖かい水…“お湯”を使った“お風呂”に入る… 完璧な生活だ…!今回の冬は辛くは無さそうだ…! 人間も喜んでいる…一緒に春を迎えよう…そしたら外も明るく、子供達も元気に遊べる! 春だ!!!踊ってしまう!!! 子供らも飛び跳ねる!!大人は笑う!! ねずみもいつの間にか何処からか来たのか…問題など無い…!全部ウチの取り分だ!! どうやら米以外も育てているらしい、勿論、全てウチの狩場 畑を駆け抜け、時々人間と一緒に山に行って 木の実や植物を取り、遊んで、食べて…寝て… とっくのとうに、この“村”に慣れきっていた
悪魔の産声
何度かの春を迎えた時、作物も豊富に実り、この村は栄えていた 時折くる旅人からの人気も高く、一番喜ばれるのはウチだった! 撫で方が下手くそな人や…凄く上手な人… 犬を連れてくる人には驚いたし、そいつの剥き出しの歯には恐怖を覚えたが、理解のある奴でよかった。すぐ仲良くなれた 村の子供もすくすくと育ち、ウチも大人になった ちょっと前に雄の同族がいたので寄ってったが、人間臭いと言われて何処かへ行ってしまった… こんなにいい所なのに…まぁもうウチは山では生ていけないだろうなとは思う… そしてこの年の秋、収穫を終えた後、冬を待つ時だった 村の人達の警戒心が上がったのだ。 異様な空気にウチはすぐ向かった 見えたのは村長と…見知らぬ人間… 村人の服とは違う…黒く、がさつな服 どうやら口論している 「ねんぐはおさめているはずだ!」 “ねんぐ”…この村ではない人間に渡す米の事 年々増えていると誰かが言ってたな…こいつらが奪っているのか 「そもそも…ほんとうにやくにんさまか?ずいぶんとおそまつなもんだなぁ!」 子供が煽る、そうか。こいつら偽物か… 子供に煽られ怒鳴り返す声に…欺瞞心…怪しい…怪しすぎる…!!! ウチの勘が吠える、村の人もそれに気がつく 「かえってくれ、ようがあるならしょるいをよこせ、わたしたちはじがよめる。つねにそうしてきた」 村長の唸りに部外者はたじろいだ、そして帰って行った 怖かったな…みんなそっと胸を下ろす。そうしてウチを撫でる 安心するらしい、よいぞ、撫でるといい 今日は緊張したからな…! 収穫したものに感謝して、実った恵みを頬張って、たらふく食べてよく寝る。 今日は疲れたからな よく寝たんだ。 それが失敗だった ふと、物音で起きた ふと…気配が多い事に気がついた ふと。今日の出来事を思い出す 慌てて飛び起きた。遅かった 畑に火がつけられている…!!! 皆を起こさねば!!はち切れんばかりの大声で叫んだ。 起きて!!畑が!!!! 次の瞬間腹部に衝撃が走る 飛ばされて地面に叩きつけられた 慌ててその先を見る …昼間の人間…!!! 火を持っている!なんだ!!何故ここにいる!!! 次に、村人の悲鳴が聞こえる …何? 何をしている? 昼間の人間が、村の人間を殺している 見てわかる。あの血の量は死んでしまう 人間は人間を狩るのか? いいや…違う!! これは縄張り争いだ!! 昼間…縄張りを見学しにきたんだ…!! では何故…火を…? 体が痛い。悲鳴があちこちに聞こえる 炎で照らされた顔を見て、さらに訳がわからなくなった ………“笑って”いる。 あいつら、村人を殺して。笑っている。 縄張り争いじゃない。初めからこの土地など興味はない。 こいつら …殺す事を楽しんでいる…!!! …許せない 許せない許せない許せない許せない!!! 住処を奪い!!命を奪い!! そして楽しんでいる!! ウチの縄張りを!私の…家族を!!!! 噛みついた。人間は狼狽えた 村の人が逃げられた、よし!急いで逃げて!!私が止めてやる!なんなら噛み殺してやる!! お前らは家族を殺した!だから私はお前らを殺す!!守る!!守ってみせる!! …勿論、石を投げられて逃げる様な存在では無かった 強く投げられて、叩きつけられた 男が鎌を振る。米を採るための道具を 稲を切る為の。刃を 「きつねさぁん!!」 …私を抱えたのは、初めて私を撫でた女性 私を抱えた女性から、血が吹き出した …庇った?なぜ…? 「…はっはぁ!!きつねかばってしににきたぞこいつ!!」 「ばかだなぁ!!」 …初めて聞く単語ばかり でもわかる。奴らは彼女を貶した 許せない!! おのれ…殺してやる… 食い尽くしてやる!!! なんて事、小さな狐にできる訳も無く 唯々無様に殺されて、村が焼かれて死んでいくのを “堕ちながら”見ていた なんでかなぁ なんでこうもうまくいかないのかなぁ 段々と赤く染まる視界。不可解な温もりがその身を包む。まるでお湯の中の様に…腕の中の様に… やだよ しにたくない せめて せめてあいつらを食い千切りたい。 そう思って、“手”を伸ばした。 手を伸ばした? 目線の先には、人間の手 そして、堕ちていた体は止まる 手だ…私に手が生えた …もっと、もっと強く、早く…! 体がぐんと上へあがる 足が見えた。人間のような きっとそうだ!ここは思った姿に生まれ変われる あいつらを殺せるだけの! 強い強い体!! 手のひら! 工具を捕まえられる! 私の!!! 体!!!!!!!!!! 無我夢中だった 少しでも、多く助けたかった だから何も考えず、“敵”を殺した 噛みついて、引きちぎって 殺して食べて、美味しくて殺して やがてみんな静かになった 何人か…何人かは守れた… 私やったよ…みんな… 「…きつ…ね…?」 そう!私帰ってきた!わた… …どうしてそんな顔をしているの? 火を見た時の、昼間の人間が襲ってきた時の… 怖いものを見た時の顔をしてる どうして? あれ? 人間ってこんなに小さかったっけ? あれ?? 私の目線は、まるで空を飛んだ時のよう あれれ??? ……… 壊れた扉から、部屋の中が見えた その先、その先 あの子が毛繕いをしていた部屋の 鏡 …何かが写っている 人間ニ人分の大きさの 黒く綺麗な毛 細く、美しい手 あの子の姿を“真似た” 鳥の様な大きなひとつの目 犬の様な鋭い牙 尻尾の様な、九つの鎌 今まで見て来た、どんな生き物とも違う “化け物だ” 驚いて肩を揺らす 鏡の中の化け物も、同じ動きする 手を伸ばす 化け物も伸ばす あれは…これは… 「…こんなの、わたしじゃない」 急に恐ろしくなった 人間が怖がってたのがわかった 私は私じゃなくなって化け物になった いやだ!!! 飛ぶ様に、森の中に逃げた 人間が鳴いていた。何を言ってたかはわからなかった 怖かった どこでもいい、暗いくらい穴の中に篭りたかった この体が入るような穴なんてない どこにもない 私の居場所は無い 怖くて 悲しくて 泣き喚いた 人間の様に、人間じゃ無いものが、泣き喚いた
悪魔としての放浪中
それからしばらくして、何度月が登ったかわからないくらい時間が経って、私はあの村から離れる様に彷徨った どの動物からも避けられた。私は強くなったらしい もう動物からは食べられる心配はしなくていいらしい、動物からは…だが 道中に出会った小鬼が教えてくれた、私達は“物怪”と呼ばれる種族らしい 魔界から産まれて、悪意を元に動き、人間の魂を喰らう者… いわば人間の敵 色々な事を教えてくれた小鬼は優しかった 気がつけば私も言葉を使って、覚えて色々学んでいった… 勿論魂の取り方も、物怪としての生き方も…物怪の“死に方”も教えてくれた まるで鳥の様な白い羽を生やした人間 絵の中の仏様の使いとは少し違った…天女様の側近の様な存在… 小鬼は彼らに殺された 緑の使い「…こんなちんけな国にも悪魔とかいんのかぁ…だる…」 明るい赤の使い「“悪魔”じゃない!“物怪”!この国の呼び方に合わせましょうって教科書に書いてあったじゃん!」 紫の使い「でも多分この後こいつらも悪魔って呼ばれるし、私らも天使って呼ばれるよー」 赤の使い「なぁーーほんとにここ僕の故郷?!天界に帰りてぇー!!じめじめーー!!」 …幼い姿の天の使いは“天使”、私達を“悪魔”と呼ぶ… 彼らの様な存在に捕まってしまうと問答無用で殺されてしまう。小鬼は何も言えずに弾け飛んだ。 そうだ、彼らは人間の味方で、私達は敵だからだ その場をそっと逃げながら考える どうして…私は人間を救いたかったのに 助けたかった。それですら神様は許してくれなかったのだ 私は悪に堕ちた…なんでだろう。 泣きじゃくりながら住処を変え、出来るだけ命を奪わない様に、逃げ隠れる様に生きてきた また時が過ぎた時、妙に静かな空間に出会う そこは古びた祠、小鬼が教えてくれた、神聖な場所 本当だったら物怪の私達は寄ることが出来ない、けれどここは違った 随分と荒んでいる…見た目は苔まみれなだけだが…中にいたであろう神格者がいない 食べられたのか…逃げたのかわからないけど…もぬけの殻だった ふとそこに寄ってみる、手のひら程の小さい祠の窓に触れると、全てが軽くなったように浮き…いや、そこいらを漂っているような“霊体”と変化し、私の大きな体は吸い込まれるように祠の中に入っていく 中は…小さくなった私の大きさを基本として…畳が6畳敷かれている小さな部屋のようで…暖かな光に包まれている… 日差しが差し込む、春の香りを乗せた畳の匂い… 不思議と住み心地も悪く無い…苦しい感じも無い 祠と一体化して、やっと安堵する きっとここに物怪がいるなんて思わないはず…ここならきっと…そのまま眠れるはず… …落ち着いた空間でふと、過去を思い出す 楽しかったなぁ…人間と暮らして…ねずみを獲って喜んで… ふと気付く “ねずみを獲って喜んで”? 私が怒って人間を殺した原因は? あの人間が、人間を殺して喜んでいたからだ それをねずみに置き換えたら? 家族を、住処を奪われて、食われて、相手が殺した仲間の…家族の体を掲げて喜んでいたら? ……… 堕ちた理由がわかった気がした 私はあの人間達と、同じ事をしていたんだ それなのに、自分だけは正しいと、自分だけが被害者だと嘆き、力を求めた …地獄に堕ちて当然だったのだ そのまま死ぬことすら許されず、醜い物怪として自然に死ぬことも出来ずに、天界のものに殺されるのを待つだけなのだ …悲しかった どうして、何が悲しいのかわからなかったけど 私はきっと、人と関わり過ぎたんだ 助けたかっただけなのに 人に会うまで、そんなふうに思う事なんて無かったのに 守りたかったのに 人に…会わなきゃよかったのか 「そんな事言いたくない」 ぽろりと出た、私の口から出た人間の鳴き声に、私は泣いた 出会わなければ、知らなければ… わたしはここにいないのに
もう一つの村
少し寝ていた様だ 陽の光が当たる、暖かい 気がつくと目の前には、老婆がいる 驚いて飛び起きた、祠の中で尻餅をついて腰を痛める 何がどうなって痛めたかわからないけど、体が痛い… けれど老婆は私が見えていないのか、気にも留めない …何をしているんだろう…? 老婆は祠の…祠の周りを綺麗にしている 土埃を払って…花を添えて… 「今日も良い一日でありますように」 そう唱えて、曲げた腰をさすりながら歩いて行った… …きっと元々この祠にいた神格者を信仰していた方なのだ、あれは神への祈り 本来ここは私がいるべき場所ではないんだ そう突きつけられた気がした けれどそれと同時に、不思議な感覚を覚えた なんだかやる気が上がっている… 小鬼に教わった事を思い出した 『人間の願う思いは物怪の妖力となる 妖力を使いて人間を喜ばせ、油断したところの魂を喰らう…』 きっとこれはそういう事 なんて言ったっけな…契りを交わす…物怪契約! “契約”をするために人間に“召喚”される… きっとあの老婆は私が入ってる祠に願った 召喚はされなかったが、この場にいる私は“契約を持ちかけられた” 結果物怪の私が妖力を得た…それじゃあ… “願いを叶えて、魂を喰らう” …いやだ。これ以上命を奪いたくない いっそ死んでしまいたい。でも天使に殺されるのは怖い… 怖い…怖くて…何もできなかった… 次の日も、老婆は祠に来た 祈るたび、私の妖力は増える 次も…その次も…祈っては私の力が蓄えられる… 毎日頭を下げて…頭… ふと、やりたかった事を思い出した “撫でる” 今できるのだろうか?そっと手を出す 半透明な私の手は、物に触れた感覚は無かったが 撫でた瞬間、炎の一部がまとわりついた びっくりして引っ込める 老婆の中に、炎がある それの一部が…手についた!! 熱くはない…なんか取れちゃったけど…老婆は気にしていない… 興味本位で嗅いでみる…いい香りだ…美味しそう…お腹が空く… 舐めてみる。すごく美味しくて、びっくりして、理解する。 一番最初に人間を殺した時、食べて美味しかったやつ 小鬼が言っていた事 …これが…魂だ…!! 血の気が引いた!私は老婆の命を少し食べてしまった! なんて事だ!あんなに気をつけていたのに… …けれどそれで少し思う 別に…願いを叶えなくても食べられるのなら… 願いを叶えても食べなくていいのでは…? …私は一つの考えを持って、明日を待ってみた 次の日、老婆は魂を齧られたとは思えない様に元気よく祠に来た 妖力の使い方はなんとなくでしかわからない だから多分、強くは使えないはず 「今日も良い一日でありますように」 「そうだな、だからまずは…体の痛みがなくなりますように!」 問いかけに答えるように意識を集中させ、妖力を込める なんとなくでしかないけれど、私も祈る どうやら声は届いていないようだった 祠に入っているからか…霊体だからか、私が弱いからかはわからない ……… 「…あら?…うふふ…いい風ね」 風ぇーーー???…風しか吹いていなかったようだ…上手くいかなかったのかな… 「あぁ、体が軽い気がする、きっといい日になるわ」 …そういうと老婆は足取り軽く帰っていく …上手く行ったのかな?わからない わからないけれど、自信はついて、妖力は減った …そうだ。こうやって、人間を助けていこう… きっとそれが罪滅ぼしになる 今からでも遅くはない …ふと、昔見た雄に言われた気がした 『君は人間臭い』 もしかしたらあの時から、私の心は人間になってたのかもしれないと思った。 しばらく老婆を見守るような毎日が続いた 老婆は日に日に元気になって、色々な話を聞かせてくれた と言っても私の姿は見えておらず、祠様に世間話をするように、楽しそうに1人でお話ししてくれるのだ 私はそれが楽しくて、一緒にいっぱい聞いていた 願い事は些細だった、毎日いい日になるように、と でもそれでよかった。多分すごい大きな願いを叶えてしまうと…おかしいことが起きている。と天の使いにバレてしまうかもしれない 少しずつ、少しずつ… 今日はいつもより長くお話ししてしまった だからだろうか、不意に声が響く 「おばあちゃん!!」 若い女が来た。多分孫だろう 中々帰ってこない祖母を探していたのだ 孫に諭されながら渋々帰る支度をする老婆 少し遠くで話をしているので何を話しているかまでは聞き取れない 老婆は私を見て一礼する、私も一礼する 孫は祠を見て…複雑そうな顔をした どうしたのだろう…大丈夫だろうか… そんな心持ちでゆったりしていると… 陽が沈む前にその孫が息を切らして祠の前にくる 何かあったのか、挙動不審だ。 私は身を構える。 物怪だと気付いて私を追い払おうとしているのか…?! 女は焦るように周りを見て… 急に手を合わせる。 「…三郎君と…結婚出来ますように!!!!」 …さぶ…? そう叫んだ孫の顔は真っ赤になっている …そうか!願い事だ! 彼女は“三郎君”に恋をして、その行末を神頼みしようとしていたのだ! 急な甘酸っぱさに困惑しているとすぐに何処かに行きそうになっていた 「待って!!何三郎や!!!」 思わず声に出た…聞こえたか聞こえていないかわからないが…孫は足を止めた 「…え?………風かな……」 伝わってない。ならば仕方ない… 彼女が彼女らしさを十分発揮して、美しく、自信を持てるように!!! そのくらいしか私には出来ない!!! …全体的によくなるように祈る 「…気のせいかな…?うん…でも…明日も会おう!今度は手を繋ぐ!!」 顔を叩いて胸を張って帰る…その背中は自信に満ちていた…頑張れ孫娘 その日から、私は結果が気になってそわそわし始めた 毎日来るのは老婆だけだが、老婆の話によれば孫が色気付いたとの事らしい 人気も高くなってしまった事から、お望みの彼以外からも声がかかってしまうかもしれない…少し…それはまずいかもな… そんな心配もする必要が無くなったのはしばらくしてから 少し大人びた孫娘は、頬を赤らめながらやってきた 「…神様…この間、私の願いを聞いてくださってありがとうございました… 無事三郎君とこの度籍を入れることに…」 あぁ!よかった!!ちゃんと愛した人と結ばれたようで…! ついつい嬉しくなって頭を撫でる しまった!と手を引くが…やっぱり魂を取ってしまうようだ…けれど… 結構しっかりと獲ってしまったにも関わらず、老婆より減りが少なく、まだまだ元気に燃えているその魂は輝かしく明るい …少しくらいなら…こうやって取っていってもいいかもしれない…? そんな事を考えていると、孫娘は何かを取り出す 「こちらお供物です。うちのおはぎ…お口に合いますとよろしいのですが…」 そうして出したものは、米に暗めの赤茶色の豆を乗せた物だった そういえばこの姿になってから“食べ物”を食べていない… 孫娘は手を合わせてから、「おはぎ」を祠の前に置いて帰って行った… …流石に…物を食べるには祠から出て、形を現さねばなるまい… 周りに生命の気配がない事を確認して…祠から抜け出す 肉体が重い!!!! 今まで霊体で過ごしていたので、己の醜い肉体がひどく重い… 唸りながらゆっくりと体を動かし、そっと「おはぎ」を手に取る…米と…これは…? 甘い香り、甘いものと…米ぇ?? 昔は干した魚と…茶色の汁…「おみそしる」をかけた塩っぱいものと食べていたが… 一口食べてみる 間 など無く二口、三口と平らげる 美味しい 美味しいのだ!柔らかな甘さと…もったりとした舌触り 豆の粒がまた良い…米は柔らかく…まるでこいつ専用のようだ 口に含み、飲み込むたびに涙が溢れる。 米の味。彼らの温もり。笑顔の声。あの村。 祠の前で、泣きじゃくりながら供物を食う獣が一匹 ………彼らと…また食を共にしたかったな 次の日。老婆が一人 ではなく複数人の老若男女を連れてやってきた 勿論私は祠の中で飛び起きたさ 中には憂いを帯びた顔をした孫娘と、仲睦まじい男もいた 老婆は自慢げに語る 「神様がお目覚めになられた!ゆっくり、平穏を祈ろう!」 「ここがばぁさんが祈ったら腰痛治ったって祠?」 「アタシのイボも治るかしらぁ…」 「何神様だ?書いとらん…」 「ちなみに私のお墨付きよ、効果すごいんだから!でも…多分ちゃんと祈らないと伝わんない」 「他三郎さんとの取り合いだったもんね…本当に僕でよかったの?」 「貴方がいいの!!!」 …なんて賑やかな状態だ…久々に見た… やはり…人間は愛おしい… 「…お稲荷様、かねぇ?お狐様が見える」 別の老婆が言う。血の気が引く…見えている…? 「ささ、あんまり騒がしいと神様もお困りになられるじゃろて…さ、1人ずつ…」 焦る私を置いて、いつもの老婆が他の人に声をかけて一列に並び、ゆっくりと願いをかける 家内平和、豊作志願、子沢山、個人的な要望… 祈られる度、想いの重さだけ力が付く …願いの手助けをするだけ…そっと背中を押す程度に…願いを叶える そして……代わりに魂の一部を頂く… その日からやがて…ここは大きく賑わった ご利益が凄い。と人伝に流れて行ったようで…恐らく旅人と思われる者もここに来るようになった 勿論最初に願った村の人は皆笑顔で叶った叶ってないを報告して、それぞれ大小のお供物を置いて行った 夜中に外に出ては食べて、満足して、懐かしさに泣いて… 備えられた花は彩りを増し、水は大地を潤し、酒は私を潤し… 金目のものは使えないしいらないから放っておくと、孫娘が頭を下げて回収していく そうだ。これは村の費用にしてあげなさい 食べ物がすぐ無くなるのはたぬきか何かか?と噂される。“私”の存在はバレてない きつねだよ、うふふ。 時々悪い願いをする奴は思い直す様に導いて、お供物に手を出す輩には“バチ”が当たる様に工夫し、魂も多めにもらう こうやって私は“神様”の役をやって…人間と生きてきた… ふと、賑やかになったこの場所に、あの老婆が来なくなった事に気がついた。 いつも来るのは孫娘…もう母となったあの子 二児はすくすくと育ち、考えれば彼女はひいおばあちゃん。 生き物の、当たり前の事を考えては 当たり前では無くなった私を思った 昔むかしあるところに、群れから離れた一匹の狐がいました。 けれど狐は一匹では生きていけず、そのままのたれ死んでしまいましたとさ。 なぁーんて事だったらきっと、こんな目には合わなかったんだろうなって、私はずっと考えていた 今日は静かだった 誰も来ない…不思議な香りの煙が漂っていた …まさか火災が…?! 不安だったが今ここで姿を出すのは危険だ… 無事を祈って夕方… 母となった孫娘がやって来た 無事でよかった!けれど…悲しい様な、それでも納得している様な顔をしている 昼間感じた香りを強く纏って、私の前に立つ 祈って…願わずに、話しかけた 「……いつも、ずっといつもここに来てたおばあちゃん。今やっと、天界へ御還りになられましたよ」 ………葬儀だ そうか、あまり強い香りは好きじゃなかったから、きつねの時に見た…あの時は近寄れなかったけれど… 人間は死した同胞を燃やすのだ そして魂の安らかを願うんだ それが今日…行われたのだ… 「…おばあちゃんが…私だけに教えてくれたんです。神様…お稲荷様は…泣いていたのでしょう?」 …身が止まる。…いつの話だ…? 「私がおはぎをお供えした日…泣きながらそれを食べる恐ろしい姿をした子がいたって」 …!!…見られていたのだ…あの姿を!! 化け物でしか無い!!あれを… 「ごめんなさい」 ………何故謝る? 「ずっと放置してたから。おばあちゃん一人じゃ…きっと綺麗に出来なかったんだって…祈る人がいなかったから、もののけになっちゃったんだと思うって」 …違う 「だからみんな呼んで、もう一回、神様が神様でいられる様にって…ここを賑わしたの」 …違う、私は神様なんかじゃない!! 「…そんなおばあちゃんはもう来れない…これからは私がここを管理していくから」 …違うんだ…許して…騙していたの…お願い… 「貴方がひとりぼっちにならないように…私達がいるから」 私は 「だからそのまま…神様でいて」 ………? 「お坊さんが言ってた。あれは神様じゃないって 妖怪が憑いてるって」 …… 「それでも構わない。だって貴方は、私達を導いてくれた…守ってくれた!…おばあちゃんに…笑顔をくれた」 … 「今度は私達が守るから…だからお願い 『このまま。土地神様として居て』」 「わかった、契約成立。ずっとここを守るよ」 … 私の声は届いたかわからなかった でも娘は、清々しい顔をしていた …唯の獣であっても、物怪であっても 私がして来たことは裏返せない 彼女は契約者。私の初めての正式な契約者 私は…ここでずっと“神様”として生きることを選んだ。 これは呪いであり、祝福なのだ。
"神"としての生
やがて月日は経ち…孫娘…「そよ」はこの神社に使える巫女となった。 三郎は神主に、息子は土地の管理、娘も同じ様に巫女になろうと奮闘中らしい そよは私の姿は見えないらしいが、声はうっすら聞こえているらしい。 風の音と共に流れてくるそうだ。 本当に良かった。こんな醜い姿は見せられまい… あの後文句を言う坊さんを説得して追っ払って、そよの母は境内の拡大を提示。大工であった父やその他の者の力を借りて、すごく立派な本殿が出来上がった 私の部屋も、本殿のまま大きく広くなり、形を変えなくてものびのびする事が出来た。 やがてこの土地最大の神社になり、参拝者も増え、資金も妖力も魂も潤って行った。 私が物怪である事はそよ以外知らず、皆心の底から神に使えようとしていた だから私が立派に“神様”を名乗れる様に、荘厳で慎ましやかに存在して来た。 今ではこの地域の人達の顔も全て覚えた なんなら全員分魂を頂いているだろう 結果、身体状態もわかるわけで、あまりにも不運を抱えていたり、不調で優れない者には、そよを通じて医者へと送らせたり ……誰かの命を奪う願いを叶えたりもした。 そうしてまた理解したのは、私が全て喰らうと何も残らなくなってしまうと言う事。 死した魂は天界へと還る。それが出来ないのだ。 “捕食”とは恐ろしい…。 だからこそ、全て喰らう事なく、余命数ヶ月くらいまで残して野放しにする事もした… それでも、天界の者がここに来ることは無かった。 ある日見知らぬ旅人が来た 旅人は薬剤師…医者か…恐らく北の方から来たのであろう。 男「こりゃまだわったでったらだこど!」 …わからん。訛りがすっごい いつも通りそよが応対しにいく。私は順番通り前の人から一個ずつ願いを聞く。 前の人が終わり、男の順番になる しかし男は後ろに人がいるのを確認して…そよに何か伝えて帰ってしまった。 不可解だ、何が一番不可解かといえば… あの男…帰り際、私と目が合った。 …見える人だと言うのか…厄介だ… そして営業終了時間間際、あの男がやって来た 本来であれば締め切っている時間…だがそよが迎え入れたのだ…何か理由があるのだろう 男「さで、やっと2人ぎりになれだどごろでなんだが」 …今のはわかる。読めたぞ…? 思ったことが口に出る奴で、かつ人に言えない様な願いを持つ輩か…面倒だ… 男「いやあ、おめ凄ぇな。初めで見だよ 神社内さ居る悪魔なんてさ」 緊張が走る。 昔の私なら血の気が引いてただけだろう だが今は違う。 境内全土に結界を張り巡らせる。何があろうと…この男はただでは帰せない。 しかし男は至って冷静だ、微笑みすら浮かべている 「貴様…何者だ」 男「そったらに恐るなよ、おめとわんつか違った“化げ物”さ」 「…何をしに来た…」 男「少す、興味湧いでね?おめさんのごどが気になって…話さ来だ、気楽にすてぐれよ、な?」 「んん…なら…話さ来たんなら…喋り方をこちらに合わせてくれ、時々何を言ってるかわからない、これでは話にならん」 男「そった事しゃべらぃだって…あ ……ぁあ、これならどうだい?私の言葉、伝わっているだろ?」 …!なんだ普通に喋れ… …違う。声が二重になっている… この響き方は…霊界を使っているのか…この男…本当に…? 「…あぁ、聞き取りやすい」 男「そいつはよかった。私は累。ここ最近は江戸にて医者を行なってる者だ。訳あってこの町に来て…訳あってお前さんと話がしたかったんだ」 「訳あって…か」 累「単刀直入に聞こう。君は何故、悪魔だと言うのにここに居るのだ?」 「………逆に聞く、何故お前がそれを聞くのだ?」 累「気になったからさ」 「…契約だよ、神になれ。とね」 累「では続けて。何故素直に言う事を聞いている?君達の様な物怪、妖、悪魔なんかは人間を騙してなんぼだろう?そーんな願いなら、ちゃちゃっと適当にこなして、はい終わり。でいいじゃない」 「不敬だぞ…!!…いや…これは私の方法で…」 累「君の気持ちはどうなの?」 「……知る必要があるか?」 累「ある」 「何故?」 累「そうだな…簡単に言えば…今江戸には私の大切な存在が居る。失いたく無い、家族がいる しかしここには力を蓄えた、凶悪な悪魔が居る。何をしでかすかわからない悪魔を、私は放って置けない。君がそうであるならば、私は君を消す」 「そっ…そう言われて「はいそうです」って答える馬鹿がいるか!!!!」 …怖い…正直天使より怖い!!!! 何故怖いかわからないが…この男の目には…悪意が無い。無いにも関わらず…殺意がある どうなっている…?こいつは何だ? 累「いないさ!でも…想定した答えは返ってくるだろう?」 …やぁだ!!怖い!!!帰れ!!! 累「…尻尾が震えてるよ?」 「んぁっ?!!!!」 累「あっはっは!!!わかりやすいなぁ!!」 「おぉおおおお前!!!!」 累「凶悪な悪魔はね?そこは冷静でいなきゃ」 「…ぁ」 累「というわけで、恐るるに足らず。と判断したが…では何故そんなひ弱な悪魔がこんな事をしているのか…気になるだろ? 他にもっと強い奴がいるのか?下っ端ちゃんだったり?」 「…戯けぇ!!!さっきから適当な事をずかずかと…!!誰かからの強制な訳あるか!!!私が!!!自ら望んでこの場に立っているのだ!!!」 累「何故?敵対する人間を庇護するのか?」 「阿保ぅ!!!皆ウチの家族や!!!ここはウチの縄張りじゃあ!!みーーーんな!!!大事な子やぁ!!帰ぇれ!!!ここの子らは渡さん!!!」 累「あっはっは!!だってけ!おそよさん」 「!!!?!」 そよ「……あ…あんまり…煽らないで下さい…」 「おそよ…聞こえ…」 累「強い言葉なら直接はっきりと聞こえるかとね…君の心情を君の声で聞きたかったのさ、いやぁ失礼した、お詫びと言ってはなんだが…」 「うるせぇけぇれ」 累「折角なら、本当に神様にならないか?」 「…は?」 累「今のままでは…ここは詐欺神社でしかない。それに、君より強大な悪魔が来た時、君はここを守るだろうが…君を誰も守れやしない。そして…君が道を間違えた時、誰も止めることが出来ない」 「…どうする気だ?」 累「紹介したい方がいるのさ、君が受け入れてくれるのなら、だがね?」 そよ「私は…神様が無事で…本当に神様になれるのであれば…良いかと思いますが…」 累「とさ?」 「……」 …怪しさ満点すぎるが上に…悪意が感じられない。 企んではいる。しかし… 奴の話通りではある。 この現状、非常に危険なのだ もし今の内容が本当に防げるのだとしたら…それはそよにとっても良い事だろう。 もし違ったら? かつての人間の様に、棲家を奪おうとしてたら? 「おそよ。祈ってくれ。 こやつが我々の敵であった時、敵を全て消し飛ばせと」 そよ「…勿論です」 累「あぁ、そえでい、…後日まだ来る、その時までに予防線張っておぐどいさ、使わへる気は無ぇばってね。へば」 「…」 そよ「へば…」 男はそう言って手を上げて帰っていった… 恐らく「それじゃ」と言ったのだろう… 不安でしか無い…だが猶予はある… これが何を意味するかはわからないが…今は… 「…お仕事お疲れ様。だ、ゆっくり休め」 そよ「……!……はい。お稲荷様も、ごゆっくりと…」 もう魂を奪わぬ様に撫でる事が出来る 伝わらずとも、頭を撫でる 愛しい笑顔…私の子… …ここは、必ず守らねば…。 天使「と言うわけで、来ました。私は天使…いえ、天女の竹と申します」 数日後、夜中に来たのは累と… 美しくほのかに光る着物と天衣を纏って微かに浮遊している…天使であった 勿論飛び起きたさ、そよ達は寝ている。 守るのは家だけでいい。…けれど… あれだけ物怪を消し飛ばして来た“天使”が話をする為に来たなど… 累「下手な事するど全力で吹っ飛ばさぃるんだど」 竹「あら、それは大変だわぁ、どんきの力量なのが見でみでものねぇ」 …舐め腐りやがってぇ… 竹「安心しなさい。あなたの行動は把握済みよ、今更何をしたって遅いわ」 「…!!……どこ…いつから…把握済み?」 竹「そうね、祠に取り憑いた時よ。 あの祠、私のなの」 「!!!!!!!…そ…それは…」 竹「でも素敵じゃない?私あれ以外にもいっぱい祠持ってるというか…担当なんだけど…他の天界からの仕事に追われて、そこの人達を見守る事が出来ない罪悪感に蝕まれてたら…知らない子がその役目をやっててくれたなんて!助かったわ〜おかげで楽出来た」 「…あぁ…えと…」 竹「でもそれが“物怪”だって事。上の人は許せなかったらしいの」 「……そりゃそ…ん?……貴方自身は…?」 竹「私ね、元々この国の“怪異”なのよ。 竹から生まれた子供…言うならこれだって“もののけ”でしょう?」 「…でも私」 竹「勿論後で貴方の事なんて調べ尽くしたわ、元野生動物…そこからこちらに来る子なんてちょいちょいいるわ」 「…」 竹「でね?確かにこの国の物怪って…よくない子が多いじゃない?尻子玉抜いたり…耳だけ食いちぎったり… でも、ずっと愛されて使われた子が自我を持ったり、ただ体の垢を舐めたりする様な子だっているの、産まれが土地であれ、天界であれ魔界であれ…我が国の物怪は全て悪きものとしては片付けられないと思ってるのよ、私」 「………じゃあ、上の人は…違う…場所の?」 竹「そうね、国が違う。特に天使信仰だからね…悪魔は駆除対象なのよ、他の国ってそんなんよね?累」 累「羅馬や諾威すか生ぎだ事は無ぇが、大抵悪魔は何すてようが関係無ぐ殺さぃぢゃーな」 竹「…ローマや……ノルウェーか!どうもまだあっちの国名と合わないのよね」 累「あっはっは!だがさすが天使様、よぐわがってらっしゃる」 竹「どうも…だから他の天使も、上の人も、どうにかして貴方を消したいの」 「…」 竹「でも私は違うわ。だって貴方“使える”んだもの」 「…物怪を使える。なんていう天女も、問題ものなのでは?」 竹「そ、でも腫れ物扱いは慣れたわ、周りを気にして震えているより、己を通した方が絶対楽だもの。で、貴方。ここに来る人間様のお願い事を叶えてあげてるのよね?しかも、魂を捕食する事なく…」 「…でも、少しは頂いてるし、叶え方だって…」 竹「十分よ。いい?神様業務やってる子なんてね、気に入った子しか見ないのよ。 あとは他の人間なんか、ちょっとやる気を与えてるだけ 神頼みで願いが叶ったってのはね、“神様に後押ししてもらった”ってやる気になった自分自身の力で叶えてるようなもんなのよ、大抵は」 「…た…確かに…そのくらいなら…って奴は多いが…」 竹「いちいち1人ずつ見てたってキリがないでしょ?ここも大分大きいし、言っちゃえば大変でしょ?」 「ぐ…だが…私のやり方なら…あ」 竹「でしょ?貴方のやり方なら、その場その場で終われる。 言われた通りに叶えて、願いが叶わなかったら「お願いの仕方を間違えちゃったかな?」ってもう一回来る訳でしょ?そうなったらそっちも儲けもんでしょ」 「…はぁ…そうだね、正直ここに来る人は何度だって来る。次のお願いも、叶ったお礼も…でもその度に私は魂の一部を食べている。私が生きたいからね、これは上の人の納得と得るって難しいんじゃない?」 竹「そう、だから私が直接会って、私の監視下に入れちゃえばいいんじゃない?って思った訳」 「…ん??監視…下…?」 竹「というわけで悪魔。これは一種の契約交渉よ、三つ、要点があるわ。 貴方はそこで私が見ている範囲で神様として働きなさい。全て、魂の量も、願いも、人数も私に報告しなさい。魂が一定量減った人間はこちらで対処するため、貴方は手を触れない事。また魂の捕食を禁ずる。 …まず一つ目の要点がこれね?」 「………あぁ…一つ目は…わかった」 竹「二つ目、この神社に集まる“信仰力”を、全て私に受け渡しなさい。これは悪魔にとっては無意味、寧ろ邪魔な力のはずよ」 「………どれの事だ?物によっては…使ってるかもしれない」 竹「そう、じゃあ一旦少し貰うわ、“コレ”の事よ」 「……!!!……楽になった…?あれ…こんな…重かったんか…?!」 竹「でしょ?言うなれば…この神社の神聖さに近いわ。魔のものを縛り上げる…縄の様な働きがある。最初の祠、一切抵抗力無かったでしょ?“信仰力”が一切無かったからよ」 「……これが無くなるのは私的にはありがたいけど…何に使うんだ?」 竹「…貴方達は人間の魂を食べるでしょ?それと同様に、私達は信仰、想い、感情を食べてるって感じなの、つまりコレ、私の御馳走って事!」 「あぁ…そうなんだったら契約関係無しにあげるよ…」 竹「そう!ありがたいわ、じゃあ三つ目 人間の監視をしなさい。他の悪魔を召喚して、その命を無駄に散らせぬように、貴方が願いを叶えなさい」 「……不満点があんま無いが…まぁ言うなれば全部貴方らの利点のみよね?その契約にて私の利点は?」 竹「ちゃんと聞いてくれてるようで助かるわ まずは私の管轄下になる為、他天界の存在からの攻撃を一切受けない。 正式な天女による指導が含まれる為、詐欺とは言われない。 …そうね、魂の捕食を制限かける事になるでしょうから、時々…扱いに困った小汚い魂の処分を頼むわ。美味しく無いかもだけど、腹は満たされるんじゃ無い?」 「…利点しかない…」 竹「そう、不利な点は、他天使からの批判殺到ってとこかしら、また他悪魔からも文句言われるかもね。これは私と貴方だけ美味しい思いをする契約なの。……こいつは私が貴方と面と向かって接触できるようにの繋ぎ目を果たしただけだからなんにも無いわね」 累「んだな?!ずっぱど思ったんだげどやっぱりそうだよなぁ??? …まぁ不安要素無ぐなるってだげでい事ではあるばってな?」 「…いいの…?それで…」 累「あぁ、問題ねさ」 竹「ふふ、そんな感じよ。さぁどうする?」 「……今は受けて、途中でやっぱ無しって出来る?」 竹「…どうして?」 「今の話は…おそよも…私の契約者も含まれてるの、私だけの話じゃ無い。彼女が嫌だと言ったら…私は彼女に従う、彼女を守る、彼女の…家族を守るから」 竹「…いいわよ。…でもそれでもう一個聞かなきゃ行けないことがあったの思い出した」 「何?」 竹「その契約者、命が尽きた時、どうするの?」 「……きっと息子が体を焼く、そこから先はわからないけど…」 竹「あぁ…そうだったわね…あのね?悪魔って、召喚者を最後は食べるものなの。 その感じだと…食べはしなさそうね」 「…食べないね、一人だけ…一回だけ丸ごと食べてしまった時があったけど…本当に何も残らなくて怖かったから…もう食べることはしな…」 竹「あぁ…あれは…あぁしないと他にも影響が…」 「嘘…私。沢山食べた…」 竹「…?」 「初めて、物怪になった日、私…怒りに身を任せて、食べた。沢山…」 竹「…それは」 累「襲撃受げだ小さな村だべな?300年ほど前の…〇〇村」 「…!!その名前…!!」 竹「…暴動があったとこね…何故貴方が?」 累「この間そご付近旅すちゃーらな、彷徨う魂居だんだよ 何すてんのがって聞いだっきゃさ…ずっぱど昔さ村救うべどすてけだぎづねに会いでんだでしゃべってでさ 村娘狐さ庇って死んだ後、狐も死んで…村人全滅すそうになった時、村娘がら化げ物産まぃだんだど」 「……!!!」 累「その時はおっかねぐでなんもしゃべれねがったんだばって、きっとあのぎづねが化げで出でけだんだど気付いで…でもぎづねも自分さ驚いで何処がに逃げでまったんだど だはんでちゃんと探すて「ありがとう」って伝えだがったんだ…てしゃべってでな?」 竹「…そこの資料なら…どこかにあったわね、もしかしてあなた…襲撃者を…」 「………なんで…ありがとう…など……?」 累「救わぃだはんでだびょん?そのまんまだったら殺さぃぢゃーんだ、だはんで感謝伝えだがったみだいでさ」 「……ぁは…流石に…聞き取れないや…」 累「あれぁ?!翻訳切れぢゃーのが」 竹「…後でそこには天使の使いを送っておくわ、大丈夫よ?…本来よく無い事だけど、貴方は誰かを助けるためだけしか魂を捕食してない それだって、私は許してあげれるし…」 「…?」 竹「今後、そんな事が起きない様に、私が見張っててあげる」 「……うん……ぇぐ…うん…」 竹「どう?一時契約…としてはいけそう?」 「…ん、…っはぁ〜!!…っ(己の頬を叩く)…私、神様やる」 竹「よかったわ、ありがとう。 …ってなると尚更こんなすっごい良い事を!!無に返そうとした!!あんの男が許せないわ!!悪魔使っちゃおうかしら?ラベンダー…貴方の名前に呪いあれ!って…ほんとしょうもない程度だけど」 「………っふ……あははっ…!天女様とて誰かに怒りをぶつけたりするのね…!」 竹「勿論よ!生きてるんだもの」 「じゃあ、いつか、名前を聞いて連想するのが無関係であんまり良く無い物になりますようにってしてあげよっか?」 竹「いいわね!厠とか!うふふ…利点もう一個あったわね、貴方と私。気が合いそう」 「…天女様と気が合う物怪なんて、そうそういないわね、あぁ可笑しい!うふふ…緊張解けちゃった…」 竹「ふふ!だって言うなれば殺し合う同士ですものね」 累(なるほど、これが後の芳香剤の呪いか…) 「あーあ…泣いたり笑ったり…忙しいや…こんな事久々すぎよ…」 竹「うふ、じゃあ監視って名目で時々お仕事サボって来ちゃおっかしら!…そうだ貴方。名前は?呪いが怖いってのなら本名じゃなくてもいいわ」 「名前…(聞き取れない発音)…でもこれってきつねの時だから…ここに来てからは…”お稲荷様”って呼ばれてたわ」 累「どう聞いても狐の鳴き声だったな…流石の天使様も発音できないんじゃないか?」 竹「そ…そうね…あと“お稲荷”さんは別の方の異名なのよね…」 「えっ!!じゃあ私は…他の方と間違われてたって事?!」 竹「多分ね、狐に関する名前だから… ね!貴方。この姿での名前が無いなら、私が付けていい?」 「えっ…いいけど…名前…必要?」 竹「必要よ、その人を表す。特別な言葉だもの…“きつね”や“物怪”は沢山いる。その中の…貴方を表す言葉だもの!」 「……私を……うん!お願い…できるかな?」 竹「任せて!…しっかり考えて…明日にでも教えるわ…これ以上仕事放置してると怒られそう…」 累「明日、終了時間辺りにまた来るさ、おそよさんとも話した方がいいだろ?」 「…そうね…帰っちゃうのね…」 竹「大丈夫よ、この後もっと長く居られるように話は通しておくわ。………うーん…」 「…な…なに?」 竹「誰かの見た目をどうこう言うのは良く無いんだけど…神様にしては凶悪よね、その姿」 「ゔぁ…えっと…」 竹「累、貴方知り合いに擬体化得意な悪魔いなかったっけ?彼呼んで変身練習手伝って貰って」 累「えっ?!!…あぁーーー…ジュバ君?どっちかっつーとコンの方がリンクは強いけど…あいつ今チェコに居るって…」 竹「じゃあ悪魔だけ寄越してって伝えて、天使命令よ?どうせ連絡取り合えるんでしょ?」 累「あははぁ〜…ごもっとも…」 竹「じゃ、色々準備してくるわね、また明日ね、きつねちゃん」 「あ…はい、また明日…た…竹さん…!」 竹「呼び捨て、または“竹ちゃん”でいいわ。 …あぁもう急かさないで!今帰るから!!」 累「…忙しいなぁ…じゃ、私も帰るよ」 「あ、はい…えと」 累「よかったな、交渉が上手く進める内容でな!これなら安心だ」 「えぇ…ん…待って。累さん貴方…天使とも物怪とも会話ができて…この中で普通に居られる…他にもあるけど…貴方本当何…?」 累「化け物。さ、物怪とはちょっと違う…君より人に溶け込むのが上手いだけの存在 なに、君がそのままの道で進むなら…敵対する事は無いさ」 「……そ…竹さんが連れてきたんだし…信じるよ…?」 累「あぁありがて、じゃ私も行くぞ、またな」 「うん…また…」 静寂が訪れる 深く考えずに…決めてしまった気がする… けど… あの日から、常に寄り添ってくれたのは…小鬼以来だった… …今の私だったら、小鬼も救えたのかな…? 「また明日…かぁ」 きつねの時に聞いていたあの言葉を使うなんて思わなかったなぁ またあした。えへへ、いい響き… 急に静けさが寂しくなって…ひとり月夜を眺めた …早く、明日にならないかなぁ… 勿論、朝日が登れば、私達の仕事は始まる 竹と累を待ちわびる想いが何処かに行ってしまう程、忙しく人が来る …なんだか…いつもより多い気がする… そよ「随分…賑わいますね…」 「昨日…天使が来たからかなぁ…」 そよ「休日でも無いのに…お疲れ様です」 微かにしか聞こえてない為、こうやって話が噛み合わない事はしょっちゅうある そんな時は尻に力を入れて腹から声を出す 「昨日!天使が来た。おそらく今日!また来る!!」 そよ「さてお賽銭箱を……!え?!天…!!!?!…はっ…わかりました。お迎えの準備を整えておきます。」 …良い子だ…本当に良い子だ… 休息も束の間。次の崇拝者が鳥居を潜る 勿論、朝に用意した紙に人数と願いを書き記し、己が仕事を全うする。 疲 れ た !! 多い…確かにこれは…捌くのは大変だろう… 日が暮れ、涼しい風が吹く頃 いつも通りの旅姿の男と 美しい着物を身に纏った至って普通の女性 累と竹が来た 竹「こんばんわ、お話にまいりました」 そよ「申し訳ございません、お参りのお時間は終了し…」 累「やぁ!おそよさん! 彼女がこの間お伝えすちゃー方だ、神様さんとも話がついでらおん」 そよ「え…あっ…!!!…大変失礼致しました。こちらへ…」 竹「ありがとう。堅苦しくなくていいわ、さぁて…やっほ!昨日ぶり!…あら?ちょっとやつれ気味?」 「思ったより人が多くてね……た…竹ちゃん来たからじゃない?」 竹「あはは!そうかも!あ、そうだそうそう…まずは…えい!!」 そよ「…え、わっ!!!」 「!!…何を…」 そよ「…えっ…?!」 竹「神聖度を上げておいたわ…まだ姿は見えないでしょうけど…声ははっきり聞こえるでしょう?」 「そ…そんな事が…おそよ…?」 そよ「…えぇ!はっきりと…!お声が聞こえます…!!」 竹「これで問題無ければ、今後も聞こえる様にしてあげれるけど…どう?」 「…そう…出来る?その方が…すごく良い」 そよ「私も…そうでありますと助かります…!」 竹「わかったわ。で、次貴方に神格名を与えるわ。名前よ?」 「あ…あぁ…」 …もしかして…そよとの関係に気を遣ってくれて…こんな回りくどい言い方をしてる…? 竹「擱稲(おいな)でどうかしら?楼擱のかく、に稲穂のいな。立派な建物と稲荷よ? どう?巫女様も…ね?」 そよ「…素敵な名ですが…?何故?」 竹「神として新たにここをお迎えするの、その時に新規の名が必要なの、“お稲荷”は正確には宇迦之御魂神系列の御分神を遷奉した所での名前なの、でも今回、私竹の元に新規で、と言う形だから…新たな名を授けたの、どう?」 擱稲「……うん。素敵な響き…聞き慣れてるし…馴染みやすいけど…立派な…かぁ」 竹「何言ってんの、これから私と共にここを立派にするんでしょ?名前負けしない様にね?擱稲」 擱稲「…そうね、感謝申し上げます。竹様」 竹「ふふ…さて、擱稲様は無事神へとなる事を受け入れましたが、貴方のご意見を聞いてませんでしたね、人の子」 そよ「…お稲荷様…擱稲様がそう望まれるのであれば、私共はその通り仕えるのみです」 竹「よかったわ。では正式に…ここを天界認定の神社と確定し、貴方は正式に神様となる事が出来る。我が竹の名に懸けて、ここに誓う」 竹「…はい!堅苦しい事終わり!て事で今後よろしくね擱稲ちゃん!」 擱稲「…ほ…本当にこれでいいの…?!」 竹「いいのよ、あ、もう記入しててくれたの?!すっごーい!!ごめんごめん!こっちでもっと簡単に出来るの用意してあってさ…あっ本堂乗り込んじゃうね!えっとね…よっと!」 擱稲「わ!!!!人見てないよね!!待って竹ちゃん!!」 そよ「…あ…えっと…」 累「人は来てねさ、大丈夫! ね?しゃべった通り、人懐っこぇ天女様だべな?心配する事なんざねってさ」 そよ「…ふふ…本当に…あぁ折角ですしお茶でもお入れしましょう。どうぞ中へ… 擱稲様も、おはぎをご用意しますよ」 擱稲「ほんとか!お前のおはぎは最高だからな!!」 竹「あら本当?!やだごめんなさい!羊羹でも用意してくればよかったわ!」 そよ「いえいえ!天女様にお手を煩わせるなど!!」 累「な!わもお邪魔すてい?西のお菓子だば少すはあるだ!」 そよ「えぇ!是非とも!」 一気に賑やかになった神社…前より声もよく通り…名も貰って…本当に楽しくて… 逆に不安になるくらいに、幸せだった だが!!同時にくっっっそ忙しくなった!! 見える輩か、何かを感じ取った輩か… 評判が良くなったのかはわからないが、大量の参拝客で昼間は大盛りになった 勿論不届き者も増えたが、そこは物怪の力の見せ所 竹が置いていった謎の道具を駆使して連絡を取り合い、“バチ”を与えて追い払う 昼間繁盛した分、夜は静寂に… 頭が締め付けられる様な頭痛が出始めたらなんか…御神体を入れている箱をもう一つ出しておく、どうやらこれに“信仰力”を溜め込むらしく、やがてそれを竹が持っていく。 勿論竹が来る時は高級な酒を両手に抱えてやってくる。私は体現し布越しで頂く。 そよを寝かしたらあとはもう晩酌騒ぎ! 日が昇る頃に二日酔いで頭を抱えた竹が帰り、我々は仕事を始める… 物怪、悪魔は酔いに強いらしい、けれど酔う事は出来るので、とても心地よいまま仕事につける。 そんな日を繰り返してきた時。 悪魔がやって来た 何が凄いと言えばその悪魔、明らかに悪魔であり、隠しきれない程の魂の捕食者…つまり“強い”悪魔なのだ だがしかし、少し褐色かかった肌、黒く、艶のある髪、うっすらと青の入った瞳… どう見ても、人間そのままの姿なのだ! 勿論驚いたが、警戒する必要はないと即座に理解した。 隣に累が居て、共に話していたからだ。 遠くから私を見て、帰っていった 恐らく今日この後やってくるのだろう… 案の定、いつもの時間にやって来た 男「ほぁあーーー遠くでもやばかったが…尚更すっげぇな…あでで…頭いてぇ…ほぁー…」 累「ありゃ?信仰増す増すだった?やっほー擱稲さん!今余裕ある?」 擱稲「…余裕はある。…そうだな…明後日くらいには竹が取りに来るだろう…で?その者は?」 男「申し遅れました!私!ジュバと申します!こっちでは柴田で通してます!ルイス…累君の紹介で参りました!えっと…そちらのお巫女様…をぉ…」 累「あぁ!こいづ悪魔…物怪だよ、擱稲ど直でお話がすてはんで別室借りぃる?わんつかすた特訓練習さ!」 そよ「あく…ぁあ!…えっと…同業者の方…?」 擱稲「あ…?…ぁあ〜!!前言ってた!!」 ジュバ「んんーーそっちで通るんだ…」 累「だはんで緊張する事ねってしゃべったべな」 擱稲「えぇと…そういう事だから、客室を開けて、貴方はゆっくり休んで…こちらの客人はこちらでもてなすから」 そよ「わかりました。では」 ジュバ「…ほぇ〜随分立派な人間だなぁ…」 擱稲「自慢の子です…ではどうぞこちらへ…」 累「あーあー…翻訳入ってる?常に入れてると体力使うからさ…」 ジュバ「おう、大丈夫そうだ、まじ何言ってんだかわっかんねーからなそれ…」 擱稲「ふふ…やっぱりわからないですよね…さて…」 ジュバ「…周りにもいなさそうだな…っはぁーー!!!人間体って狭いんだよなぁーー!!」 擱稲「…うわあ!!」 男は…到底人とは思えない姿へと変貌した 固く艶のある…まるで鎧のような肌 四つの輝く瞳…数珠の様な尻尾…凶悪な…鋏のような手… 擱稲「あなた…もしかして蟹??!?」 ジュバ「惜しい!!俺蠍っす!!」 累「蠍は…ここら辺にはいないからな…」 ジュバ「まじか…じゃ…蟹で…で、あんたは…狐?」 擱稲「………根本は」 恐らく、私が思った姿になったと仮定するのであれば… この目も口も…恐ろしかった鳥と犬からだろう ジュバ「まぁでも…一応人の構造にはなってるから…すぐ身につくと思うよ、というわけで改めて…俺はジュバ、あんたの擬体指導のために来た悪魔だ、よろしく」 擱稲「…よろしくお願いします。ジュバさん 私は擱稲…神様やってる悪魔です(ドヤ」 ジュバ「あはーーー!!!ほーーんと!!まーじすげぇよあんたってやつはーー!!」 累「ツボがわからんかったが今のは悪魔ジョークか??」 ジュバ「そんなんだよ…あ〜あ!最高だ!日本も捨てたもんじゃねぇな」 擱稲「…そういえば遠くから来た…と?」 ジュバ「そ、海を超えた遥か先、チェコって国から連絡かかってそのまま日本に行けって言われてきました。…くっふふ…あいつの顔、お前に見せてやりたかったぜ」 累「え??なにwwwコンちゃん不貞腐れてた?」 ジュバ「そwww鎖国だから私行けないのにみんな向こう集まってるじゃ無いかぁ!って嘆いてたよ!」 累「かーーーー!!!!wwwwww来られると困るが来ないと可哀想過ぎるなwwwwww」 擱稲「えと…」 累「あぁわりぃ!私はおそよさんが来ないように見張ってるからさ、頑張ってな」 擱稲「あっ…ありがとう…助かる…この姿はどうも見せたくなくてな…」 ジュバ「OK、じゃあ…悪魔特有の変身の練習からだ、なりたい自分を思い浮かべて〜?一回俺がコネ回してやるから…」 擱稲「桶…?まぁ…はい」 それから、日を跨いで特訓をした 竹が来てる日はジュバは来ず、竹のいない日にジュバが来た。 累は一回江戸に帰ったようだが、ほくほくとした顔でまた戻ってきたりもした そのまましばらく特訓を続けては…人々を見て… そんな日々を送っている最中…あの村で生きて…寿命で死んだ魂を竹が連れて来て、私は彼らともう一度話ができた… それまでに体を作れなかったのは悔しいが、逆にアレが私だとわかって良かったらしい 「助けてくれてありがとう」 それを言いたかったのだと、最後に聞いた鳴き声は待って欲しかった言葉だと… 三百年越しの誤解が解け、私はわんわんと泣いた。彼らに安らぎを祈り、次の人生に幸多き事を願った。 そこから術も能力も上手くいくようになった気がする ジュバと出会って五ヶ月、ようやく…己の力で安定した人の姿になれた 名前は知らない…あの“ウチ”を撫でてくれてたあの子…よりちょっと目がそよっぽくなってしまったが…どこからどう見ても、普通の女の子… ジュバ「よくやった!!完璧じゃねぇか!!」 累「すごいな!これなら…きっと会えるぞ!」 擱稲「おぉ…い…行けるか…?いくか…よし」 意を決して、この姿でそよに合う 累「おそよさん、擱稲様体現なさぃだぞ」 そよ「…では…失礼いたします…」 初めて、目が合う。初めて…触れ合える… そよ「…!!…なんと…愛らしい…えっ…人の…えっ?!」 擱稲「…おそよ…こちらに…」 そよ「…!はい。擱稲様」 そっと呼ぶ…そっと…頬を撫でる 暖かい。柔らかい。 不思議な感覚で 髪を撫でる 流れがいいな 愛おしいな あったかいな 涙が溢れ、気が抜けた ジュバ「…わ!お…擱稲様!!!」 そよ「何…を…えっ!!!!!!?!!!!?」 累「あらぁ…」 想定より騒がしい…何… そよ「しっぽ!!!!!!!」 声と目を輝かせるそよ。 しっ……ぽぉ??!? 慌てて鏡を見る 人の姿に…狐の時についていたような尻尾が9本生え、ちゃんと黒くなるよう練習した目は黄色に、そして…人の耳は消え、頭上に狐の耳が生えた中途半端な姿になってしまった なんてこった!!お披露目失敗だ!!! 恥ずかしさと感動と慌ただしさが混ざった涙目の私を… そよ「なんと…愛おしき姿…擱稲様…!!このようなお姿で…わぁ…触…あっご無礼をっ…わぁ…!」 随分と興奮気味でいる。どうしたのだ… ジュバ「アリだな」 擱稲「え?」 累「…これこの姿のままでも神々しくていいのでは?」 そよ「こちらでいらっしゃれば…私が嬉しい…」 擱稲「お…そ…そうか…」 そよ「…擱稲様…ところで先程のは…」 擱稲「…あっ…えっと…しっかりと…お前を撫でたかったんだ…この形をして…な」 そよ「……えへへ…ありがとうございます…!」 擱稲「…いや…こっちのが…ふふ…あぁ…嬉しいだろう?私も嬉しかったんだ…」 もう一度撫でる。そよの笑顔 なんて…幸せか 竹「体現成功だってーーー??!」 累「おわぁーーー!!!!」 ジュバ「天使ィイーーーー!!!!!」 擱稲「なんじゃああ!!!」 竹「うわぁーーー!!!モフモフ!!!もふらせてーーーー!!!」 そよ「あっ!!!あっえっあっ私も!!!!」 擱稲「おぉおおおぉ??!?…良いぞ!!!」 その夜はもう…どんちゃん騒ぎだった ジュバがとても居た堪れない状態ではあったが…それでも騒がしく、愛おしく… その日から私は、この姿で仕事をし始めた 竹曰く…体現、召喚した悪魔は誰にだって姿を目視することが出来るが、長い間“信仰力”に晒されてた“神聖”持ちになった場合 天使と同じように一般の者には姿が見えないらしい つまり私は今、見える人には見え 見えない人には見えないといった霊体と同じ状態を、本体で起こしているのだ。 少し気合の入れ方を変えれば、普通の悪魔と同じように全員に見せることができる なので、この場で願いを叶えながらおはぎを食べることが出来る …無論する事は無いが、お昼に家族で共に飯を食う事は出来るのだ 力を蓄えたので姿を出せる。と三郎や子らに伝えて見せたが…あの驚いた顔と言ったら!可愛くて仕方がない! 勿論かつてのように、私の自慢の尻尾を撫でさせることもしたさ 良かった、鎌尾じゃなくて そこからあとはもう…何も問題なく過ごしていった 行き過ぎだと怒られた竹は本当に時たまに来るようになり ジュバはこそっと次の召喚者の為にな!…と何処かへと去っていった 本来であれば駆除対象になるのであろう…幸運を祈って見ないふりをした 累も役目を終えたので江戸に家を構えるらしい 時折手紙を出す、近場で依頼があったら寄るよ、と残して去っていった。 それから文通でのやり取りがちゃんとわかる言葉だったので、こちらの方が楽だな、と笑い合った 辛い時も、悲しい時も、楽しい時も、急患が出た時も… たくさん送りあって、たまに会って話してなんて事もしてた 時はすぐに去っていった やがて、そよの肉体は限界を迎えかけた 肉体から、魂の炎が溢れているのだ 溢れた炎は味気なく、食にもならない 竹に伝えると、葬儀の手続きを済ませてくれた そよ「お先に天界へ向かいます」 看取る時は、家族全員で看取った 一番泣いていたのは三郎。自分が先に行くつもりだったらしい… …多分最初にそよの魂を私が食べたからだろうな… まだお前の体はしばらくは保つと伝えると尚更大泣き だが、そよの体から竹が魂を抱えた時 霊体であるにも関わらず、少し話せたそよは凄く元気で 三郎にやる事やり切るように、と叱っていた まるで一番最初に見た、叱られている大人と子供のように… 三郎も納得し、最期はみんなが笑顔になれていた 人間は、感情が凄い変わるものだ… 無事魂を還し、竹の用意した葬儀屋は私を気にする事なく式を行い、無事“葬式”が完了した やがてくる三郎の番を考えながら、息子の吉平、娘のさわと共にこの神社を支えていこう そう意気込んでいた時だった 酷い揺れだった 朝の支度を終え、仕事を始めようかとの時 地面が飛んだのだ 何が起きたのかわからないまま… 次に横揺れが起きた 家が軋む音がした 擱稲「おさわ!!!道の真ん中へ!!!!」 崩壊 本堂は崩れ、鳥居は倒れ それだけでない、周りの家々も、また木々ですら…倒れて崩れて… 己を霊体化して逃げ出し、擬体化を行いさわの元へ駆ける まだ揺れる、次はいつだ…? ふと周りを見る …そこは地獄だった 家々の下には体を失ったであろう魂の炎が、青白く燃えていた 我が家を見る 二つ、魂が灯っている 嫌だ…!! 嘆く間もなく、青白い炎の中に強く、あの忌々しい赤い炎が駆け上る …火災だ…!! この時間はまだ朝支度などをする家もあるだろう 火を扱っている最中に家が崩壊したら…? 血の気が引く、体が強張る… けれどそれを崩すように、声が届く 「助けて!擱稲様」 さわではない、町の民が、強く願ったのだ そうだ、私が守らねば 私が…神様なのだから!! その日は朝から小雨だった 幸い、雨量を増して、火災が広がらぬようには出来た けれど…揺れを止める事は無理だった また、この量の魂が“転がって”いるのだ 物怪…悪魔にとっては好都合だろう 私は全身全霊をかけて、手の届くところまで結界を張り巡らせて…死した魂達を悪魔の手の届かぬように守った 町まで…届くまで…神社を超えて…限界まで結界を張り巡らせる まだ死後混乱して形を保てない吉平と、己をすぐに理解して、結界の外にいる魂を中に引っ張っていこうとする三郎 生者の為に安心提供と救助を行うさわと共に… 私は強く願った 竹「…いな、擱稲?」 擱稲「…はっ!!竹!!?!っは…ごめんウチ…」 竹「あぁよかった…お疲れ様…擱稲…無事魂は全て回収出来た…あんた頑張ったよ…」 気がつけば、私は地蔵の如くただ祈って固まっていたらしい。もう立派な大人になったさわが号泣していた いつのまにか吉平も動いており、三郎も無事 …まぁ…死んではいるんだが… 生者も落ち着いて、引き続き救助活動をいている。魂の炎は無くなっていた 男「…見事なものだな…」 一人、褐色で白髪の知らない男が居た 竹「だから言ったでしょーー??!??擱稲ちゃんはすっっごいんだって!!ふん!! …あぁこいつがラベンダー、私の上司よ」 擱稲「あ…厠の…!」 ラベ「かわ?」 擱稲「いえ!!!何も!!…あてて…魂…全部回収…出来たと…」 ラベ「あぁ……君の協力のお陰でな」 竹「ほーr」 ラベ「だがしかし悪魔を許す訳には行かないし、これ以上悪魔と干渉するのも私は許さない。それに私は“彼女”に感謝したのだ。断じて、悪魔などではない!」 竹「…べーーだ!!」 擱稲「あ…あは…」 ラベ「ほら、さっさと次行くぞ、まだ回れていない地域は残っている」 竹「あぁっ…もぉ〜…はぁ…って事であたし行くけど…お二人も連れて行くね?」 擱稲「…あぁ、そう…ね…」 急な死に不服そうな二人としっかりと別れを告げて、無事魂が登って行ったのを見送る ここまで神聖が高くとも、私は登れない世界に…家族3人は行ってしまった… 悲しんでいる暇は無い。 “こちら”はまだまだやる事が多いのだ 生き残ったさわと共に…町の復刻のために力を使う 勿論姿は出せないけれど…それで十分働いたなと思う程、安全と安心を祈る人々が居た お腹が空こうが気にもせず、私は魂を食べる事なく、無事を祈った 時々竹が持ってきてくれる凶悪犯の魂はとてもくどいけれど…それを頼りに食べては…祈った やがて、町の補修もまだだというのに、前より小さめに、それでもしっかりと本堂が建て直された 私は後ででいいと否定したのだが…さわが言うには「祈る所がしっかりしていた方が皆が安心する」との事だった やがて出来た神社を、さわは祈りと敬意を込めて「稲荷御梵神社(いなりおそよ)」と名付けた 勘違いからではあるが…私の稲と、宇宙の根理である梵と…母の名…「そよ」である そういえばここには名前が無かったのだ 改めて出来た我が家は、復興支援の象徴としてそびえ立った。 まだ来る揺れに怯えながらも、この町の人達は希望に向かっていた 勿論私も、強く生きて行くと誓った あれから…しばらくしてだいぶ落ち着いてきた 流石にもう断食は苦しいので、少し…少しずつ頂くようにしてはいた そんな中ふと…気がついたのだ …累からの手紙が、あの日依頼来ていない 台風で酷い目に遭った時も、急患で北に向かった時も、火災で家族を失った時も… どんな時でさえ、文は届いていたのに 無論郵便経路が分断されて…というのも考えた。何せここでこれだけの被害だ…江戸にも来ているだろう… だがそれは違ったようなのだ。今日江戸にいる別の…さわの友人から文が来た つまり、手紙を届ける機関は生きてるのだ そうだ、あとはもうわかりきってる事… …思えばやつも老化していた、同じような“化け物”などと言っても…人間と同じく年老いていた 崩れた建物に巻き込まれてしまえば…逃げる事は難しいだろう… … 人は死ぬ。それは何度も見てきた 悪魔も死ぬ。それに…もう敵対する事だってあり得る 天使は死なない。けれど触れる事は出来ない …だから少し…化け物に夢見て、勝手に落胆しただけ それでもぽっかりと穴が空いたようで、とても寂しくなった。 そこから、来ない手紙を待ちながらも、ただひたすら安定を願って生きていった しばらく来なくても、多少の揺れで人々は恐怖し、狼狽え、願い、安堵する。 そうこうして行くうちに、さわも年老いた。 無論竹を呼んで…同じように葬儀を行なった。 さわは結婚する事なく、子を宿す事なく天界へと還っていった 無論葬儀は沢山の人に囲まれた 吉平が迎えに来て、共に笑って逝った …これで私の“家族”は全員還ったのだ… でも勿論、私は神を辞める気はない 新しくこの神社を動かしていこうと志願してきた若者も居る。でも私はもう…人前には姿を出さないだろう… “失うのが、怖過ぎる” でもここで他人の願いを叶え、他人の人生を眺めるだけのも悪くはないし… 勿論竹だって居るわけだし、寂しくは無いさ 気を引き締めて…稲荷御梵神社の主神として私はここにいる。 それが私の役目だ
そして現代へ
やがて年が過ぎた。 周りがどんどんと新しい家が建つ中、改修工事や点検などの手を加えながらも、この神社は有り続けた。 勿論ウチと、竹と、引き継ぎ引き継ぎ守ってくれた神主のお陰である 願いは時と共に変わって行く 最近は殺伐としたものも少なく、やれ受験だやれ恋心やなど、言ってしまえばチープなものばかり ウチもグローバルに特化し始めてな、日本語は勿論。英語…はなんとか…カタカナは完全習得済みである。ナウいヤングバカウケであるのだ。勿論これが古いらしいってのも仕入れた、流れ早過ぎん??? そんなこんなで平和な日常、正月でもなんでも無い日 一家がお参りに来た 見たところイギリス系3人家族、子供はとても嫌がっているようだ 夫婦はとても楽しそうに…ノートか何かを抱えて目を輝かせている 恐らく神社印集めが趣味なのだろうな… 意外と礼儀正しく、また日本語も流暢だ 母「こんなとこにもあったなんてね〜!!」 父「わー!!綺麗!ね!いい感じだと思わない?」 子「だから神社は嫌いだと何度も…」 随分と達観した子だ。本気で嫌がっている 何がそんなに嫌なんだろう…? 今日は人が少ないのですぐに対応できる 父母は家内安全、健康第一…うんうん …ふと目線に気付く まだ幼稚園児くらいの子供ははっきりと“私”を見ている ははーん?見える体質だから神社の恐ろしい存在を見てしまって以降、怖いのか… とも思ったが、彼から恐怖心は感じない いや、何も感じない 恐れも、もはや興味すら…勿論願いも無い 何も…無い…? …子供に気を取られてるうちにお参り時間が終わり、ウキウキで神宮に向かい、神社印と占いを引に行く親 …魂を取り損ねたがまぁいいか…ここが気に入ったらまたおいで 目線を逸らして鳥を眺めていると、少年が本堂に走ってくる なんだ小僧!!賽銭泥棒でもする気か?!実はウチが見えていない系か?! 子供「うん。やっぱりそうだ」 子供はウチをしっかり見据えて口を開く 子供「君。擱稲君でしょ?」 擱稲「…ぉえ?!」 子供「ふふ、話は聞いてるよ…r」 母「コンちゃーん?行くよ〜」 子供「…はぁ〜い」 …????…彼は… コン「今日の夜、また来るよ」 声に呼ばれて帰り際、振り返って残した言葉はウチを強く刺した 青い瞳の…あの子は……何処かで…? その夜。 間違いなくあの子が、真夜中にやって来た 親御さんはとか、危険だぞとか…昼間のは一体…?!なんて聞きたかったが、そんな事は吹っ飛んでしまった そうだ 一緒にいたのは確実に 「累」だったからだ 擱稲「………累…?」 ルイス「!!!おーーーーーーーー擱稲さぁん!!!!よかった現役で!!!」 コン「何?私を疑ってたの君?」 ルイス「おう。けどまあ場所も場所だし、本当だったらいいなとは思ってたのよ〜!!! わぁーー!!ちょっとこじんまりした?」 …感動の再会とは思えないほどの落ち着きに、滲み出てた涙はほろりと溢れた程度にすんだ 擱稲「累お前…!言葉普通…おまっ…!霊体じゃないかぁ!!竹呼ぶかぁ?!」 ルイス「あぁ!お構いなく!!あはは!懐かしい名前だなぁ〜!!」 擱稲「懐かしいて…おま…え…?」 コン「ん?化け物って説明はしたんじゃ無くて?」 ルイス「ん、化け物とは言ったが、死んでも還れないとは言ってなかったな」 擱稲「…え…じゃあ…そのまま彷徨って…えっ少年…???えっ???」 ルイス「じゃあ改めて言うかぁ〜なんか恥ずかしいけど… 私は“ルイス”…累はあの時の人間体の名前 ちなみに生まれが東北だったら訛りが抜けなかっただけで、ご覧の通り私は普通に喋っているだろう?あの時は悪かったね…へへ… そして死しても還れず、何度もそのまま転生を繰り返していって人生を何周も謳歌する化け物『螺旋の魂』だ、よろしく」 コン「ついでに私も同じような『螺旋の魂』 名前はコンラード。初めまして、異種な悪魔君…」 擱稲「…螺旋…るい…こ…??」 コン「私は…そうだね、ジュバ君は覚えてる?」 擱稲「あ…あぁ…変身を教えてくれた悪魔で…」 コン「言うなれば、私はジュバ君の専用召喚者さ、あの時チェコから日本への召喚を命じたのは私。これでわかるかい?」 擱稲「え……あ……!!あーーーー!!!!! はっ??!?じゃあ…君…中身は…!!!」 コン「ご名答。人では無く、また子供ですら無い。正真正銘…“化け物”さ…」 擱稲「わ゛ぁ!!!!!!!!!」 ルイス「お前本当にその能力解放好きだよな?」 コン「勿論、この私を見た子らの反応が愛おしいからねぇ(瞬時に老父から子供に戻る)」 擱稲「お…あ…えっ…累…ルイ…スも出来る…???」 ルイス「おう、出来っぞ(能力解放化)」 擱稲「わぁあ!!!当時やれや!!!!おま…人と思って…震災時めっっっっちゃ心配したんだぞぉ??!」 ルイス「わぁーーーー!!!!ごめん!!! でもまじであれで潰れて死んだから…へへ…(元の姿に戻る)」 擱稲「ほんとに死んどったんかぁーーーーい!!!…はぁ…でもまぁあの神社も…それで潰れて建て直した感じなんだけどね…」 ルイス「む。…そうだったか…すまんな、死後すぐに向かうつもりだったんだが、次の転生先に飛ばされててな…」 擱稲「はは…そりゃ連絡すら出来ないよねぇ…で…えぇと…少年?でいいのかな?」 コン「うーむ…まぁ、今回の私ではあるから、それでいいし、コンと呼んでくれても構わないよ」 擱稲「それじゃあ…コン君…は、昼間のあの行動は一体…」 コン「あぁ、私こう見えて大量犯罪鬼だからさ、しょっちゅう悪魔も個人使用で使ってるし…だから性質的には悪魔寄りなのよ、だから神社嫌いなワケ」 擱稲「おうおうおう天界直下の擱稲様が許せる範囲では無さげじゃねぇか」 コン「ふふ…だが君は確実に“許す”さ…その天界様に見過ごしてもらえる様契約済みでさ…後で天使にでも聞いてご覧…渋い顔して認めてくれるだろうからさ…」 擱稲「……な…ウチが聞くのもおかしいかもしれんが何故…」 コン「『天界の業務の為に強制的に悪魔を使用する事が出来る召喚者になれ』との取引に『今後一切天界からの監視、規制をしない』を持ちかけて契約成立。だからさ」 ルイス「やりおるわこいつって思ったね…」 コン「ちなみに君宛てにジュバを送り出したのも、この契約だった為出来た事さ」 擱稲「おぉぁああーーーー!!!…そういう…取引方が…」 ルイス「正直君がこいつだったら、魂喰う事許してなんて言いそうだなとは思ったけどな…純粋で助かったぜ本当」 コン「失敬な。魂を捕食なんてしないさ、全部好き勝手扱っていいか?と聞くよ」 擱稲「あかーーーん」 コン「ふふ、まぁそんな所。あとの行動は…ふと君が何者なのかと気が付いたのと、彼女であるなら魂を取るはず、しかし何故取らない?って思って見ていたよ。その後やっちゃったなぁって感情を表したので確定したのさ、ルイスの言っていた神様してる悪魔だと…ね」 擱稲「なるほ…ど…そう、お前の感情が一切無くて何故だ???と思ってる間に終わっちゃったのさ…てか君も相手の感情が習得できるのか…?」 コン「ルイスもだよ?」 ルイス「そう」 擱稲「お前ら…」 コン「そうしてわかるから、感情を相手に伝えない事だって出来るわけ。でもよかったよ、君があのまま魂に手を出していたら 全身全霊で意識を向けてあげようと思ってたから♡」 擱稲「ひっ!!!!…お前なにやつ…ぁあ化け物っつぅーたな…なんでじゃあ!!ウチお仕事しかしとらんのにぃ!!!」 コン「私のものに手をつけられるのは気に食わないんだもの♪」 擱稲「ものて…」 ルイス「あはは…こいつのアレは洒落にならねーから…あそこのご夫婦は何もしない方が良いかと思うぜ…」 コン「叶える必要のある願いですらなかったでしょ?それくらい、私でどうとでもなるさ」 擱稲「父母大好きっ子か?」 コン「古き知り合いに近いんだよ、きっと転生さ…特別ではあるさ…友人と先輩としてね?」 擱稲「お……前世持ちは大変だな…」 コン「ふ、あぁそうだそれで思い出した。君。螺旋の魂見た事ないでしょ」 擱稲「おん、なんだろうなと思ったが…」 コン「…ほっ…これだよ」 擱稲「!!!?!…なん…周りに…?枠????」 コン「これが螺旋の魂、触ってみても良いけど…恐らく一部すら取れないでしょ?」 擱稲「………ほ…本当だ…一切手に付かない…」 コン「…っしょ…君の目なら見方を変えれば魂の形などすぐに見えるだろう…基本的にこの形をした魂が特殊魂さ、悪魔は吸うか舐めることしか出来ない魂… その中でも…私とルイス、あともう一人…の悪魔が“化け物”だ。後で紹介するよ」 擱稲「ほぇぇ…ん?後で…?」 コン「そ、私。最近ここに越して来たのさ、住処の探索中にここを見つけた訳、今後ここを使用させてもらうつもりだから…何卒よろしく」 擱稲「おぁ…あぁ…って事は…?」 ルイス「そ、私もしばらくこの街にいるよ、今度は霊体として君を手伝えるさ」 擱稲「あぁ…そうか!!あは!!…寂しかったんだぞ!!!このやろーー!!!」 ルイス「あっはっは!次は竹さんがいる時の晩酌にお邪魔しようかな!」 コン「私は遠慮しておくよ、一応この体を壊したくないからね」 ルイス「来ても飲ませねぇよ」 擱稲「てかそうじゃお前寝る時間大丈夫なのか???」 コン「子供ではな…ぁああこの体じゃ説得力ないねぇ…」 ルイス「今それ幼稚園なに?」 コン「年長、来年小学校入学」 擱稲「可愛いお年頃や」 コン「中身これだよ?ふふ…」 ルイス「自虐すんなって…でもま、そろそろ起きる人もいるしな」 コン「…そうだねぇ…早朝勤務かね?」 擱稲「…うん、毎朝そこの前通るサラリーマンおるわ」 コン「あらーそれはダメだね、じゃあまた今度ね、君は面白そうだから…飽きるまで来てあげるよ」 擱稲「あはは…飽きるまで…な、おう、ありがとう」 コン「ぅ…私は素直な感謝がいっちばん嫌いでね…あーあ…ファイヤド君と相性良さそうじゃない?」 ルイス「確かに!あいつもこっち呼んで皆で住むか」 コン「私家庭持ち〜」 ルイス「持たれてる方だろうがよ…おっとそれじゃ、また今度な!」 擱稲「ははっ!!…あぁ、またな!」 それから、三位一体型の化け物悪魔のファイヤド…ファフニールさんや、コン君にガン飛ばす天使…ロベリアさん、勿論竹もよく来るようになって… 話していくうちに、気になっていたコンビニスイーツや、好物のおはぎを、生身であるコン君やファフニールさんに頼んでは買って来てもらうことだって出来たりもした すごく美味しかったが…やはりおはぎはそよの方が上だった そんな事をしてるうちにやって来た、ファフニールさんについて来た天界協力型の悪魔達の中にジュバ君もいて…一気にここは賑やかになった 悪魔も寄れる神社としてここは彼らにとって憩いの場になり… 今年は夢見てた“夏祭り”に参加できるぞと喜んでくれた そういえばいつ頃からかこの国にも来ていた“死神”も、悪魔が多いからって理由で監視しに来ては…休憩がてら和んで… 勿論お互い変なことしたら戦争だぞ、と警戒はしているが…そもそも私の結界が張られているこの空間では全員好き勝手出来るはずもなく… ここに悪魔、死神、天使、人間…そして化け物と居る事が出来るのだ なんて…なんて賑やかでカオスで幸せな空間なんだろか!可笑しくて仕方がない 勿論誰もいない時もある。それでも十分寂しさは減るわけで… ここまで“神様”やって来て、本当に良かったと、そしてそよ達にこの風景を見せてあげたいなと…強く想った 次の年、服装が大人びたコン君が、栗羊羹片手にやって来た コン「やぁ擱稲君」 擱稲「おぉコン君、捧げ物初期持参とは…お願い事かな?」 コン「“頼み事”と“相談事”だよ、ねぇ擱稲君?君、異界の悪魔の母となってみない?」 擱稲「…?どう言うことだ?」 コン「私達って元々違う世界で生きてたって事、この間説明したじゃない? それに近い別の世界でね、ファフニールの様な種別悪魔になる子が…数名いるんだ。その子達の指導者、上司、母、そして家となって欲しいんだ」 擱稲「…その子らは…最終的にはどうなるの?」 コン「どうもならないよ?この世界に引っ越してくるだけ、あとは君が好き勝手に育てて良い…彼らに家があれば良いのさ」 擱稲「…なんでウチに?」 コン「君、寂しがってたでしょ?それに彼らは生まれは悪魔でしかないけれど…“悪”ではないんだ… 色々な都合が積み重なって…結果君の下に置いておく事が一番安定していると判断した」 擱稲「…なるほど…?…ウチの好きにして良いんだな?ウチの家族にして…良いんだな?」 コン「私は…私達は構わない、彼らがどう思うかは彼ら次第だけどね… 悪魔だからしばらく死ぬこともないし…ここに配属されるなら、取り上げられることも、天界で処分されることもないだろう」 擱稲「…わかった。神の子としての行動が出来そうであれば、責任を持って育てよう… それを本人が拒絶したら…この街に放り出す。後は天界に判断を委ねる」 コン「いいね、じゃあ交渉成立だ …彼らの名前は…文字にするよ…rrro、gggo…この二人…正確にいえば三人。成功すればもう一人追加だけど…」 擱稲「うぅん……名前。名前!ウチが決めていいか?!彼らの特別な名を!」 コン「あぁ、決まったら教えてくれ、私は私で彼らの生命データを処理しなくてはならないからね」 擱稲「あぁわかった、任せろ!」 コン「ふふ…期待してるよ、さぁ契約金前払い、上手くいったら追加報酬だよ」 擱稲「わぁ!!次日本酒欲しいぞ!」 コン「…ファイヤド君に頼んでおくよ、では私は…宿題があるので」 擱稲「おうwww頑張れや」 …そうか、新たな家族が出来るのだ 悪魔の…家族…今度は50年ぽっちで失うこともないはず!! 一緒に神社を経営して、願いを叶えて、ご飯食べて… 希望のある名前にしよう!神聖な…そして美しい… あぁ楽しみだ!早く会いたいな! 愛しい私の家族…!! (そして放浪者の手記_02後半に繋がる)