別垢(n次創作垢)のうちよそ情報を含みます。
初見の方は多分分かりにくいと思われます。
旧世界での堕ちたコンスタンスから引き続いているお話です。
地震などの自然災害などによる死亡描写を含みます。苦手な方は閲覧をお控えください。
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堕ちた
堕ちた
堕ちて堕ちて、堕ち続けた。
終わらない
終わらないはずだった。
終わってはならないのに。
目が覚めたら、どこかの布の上に寝かされていた。
テレビの無い、暗く無い、彼の背中の無い世界
体はある。手を伸ばしてみる。
小さなちいさなその手は赤子の手だ
しかしそれは確実に、私の手だ
何故?
なぜ??
声を出してみる
…赤子の声だ
なぜ???
導き出され、思考を回るひとつの答え
「…転生?」
聞き慣れない赤子の声が空間に響く
嫌だ
私は誰だ?
私はコンスタンス・ラトクリフ
私はここに居る
私は私である事を忘れていない
私はここに居る
私は感情を味わえる、味覚はある
私“は”ここに居る
私“だけ”ここに居る
私“しか”ここに居ない
嫌だ
誰かいないのか
嫌だ…
他の皆はいないのか…
嫌だ!
彼の味はどこにも無い!
嫌だ!!
他の奴らの…味も気配も無い!!
いやだ!!
誰か…!応えて!ねぇみんな…!ファイヤド!ヌル!
ルイス!!
________ひとつわかった事がある
私は今、感情が生きている。
初めて堕ちた時に失った喜怒哀楽が、溢れ出てくる。
特に、笑い始めてから何処かに落とした「哀」が強く出てくるのだ
涙が止まらない
赤子だからでは無い。私が悲しいんだ。
寂しいんだ。辛いんだ。
滑稽なほどに虚しく、泣き喚き、誰かに寄り添って欲しくて、失った物の重大さに押し潰される…
ただ悔しいが、泣き叫べばこの赤子の母親が駆けつけてくれ、抱き抱える。
…不本意だがこれが酷く落ち着き、眠りに誘う。まぁ赤子の本能だもの、私が抵抗する必要もない。
そんなこんなで一息ついて、もう一度確認してみる。
私は終わらせる事を放棄して、彼と共に堕ち続けた、温度の無い永遠を選んだ。段々と感情(味)の無くなっていく彼の背中にもたれながら、ただひたすら永遠と落下していた
あの世界は私が終わらせない限り終わらない。つまり終了させるには外からの信号が必要なのだ。
その信号は、電波塔の停止。
“私”の電波塔
正確にいえば、電波塔から発生している信号を止める、信号停止という事になるのだが…
それすなわち、“コンスタンス”の死亡を意味する。
それは“別の私”は行わないであろう、何せ自ら死ぬ利点など無い。今あいつは彼を堕とせたという実績に大喜びなのだから。
そして私の電波塔には他人は干渉できない。
あれは共通世界に移動させていないもの…私の扉を開かない限り内部に入る事は出来ないし、例え入ったところで操作、または破壊も不可能だろう。
ただ一人を除いて
ルイス・ランドルフ
世界を繋げたあの男なら、私の電波塔を停止させる事が出来る。
もしくはヌル
しかしヌルも私と同じく、電波塔の静止は自分を殺す事だ、ルイスの塔に本体があるから問題ないのか…?
だとするならば
私を
ただ堕ちる事を望んだ私を
…
捨てたのか?
お前も私を捨てたのか
手放したのか
わたしを…
……一々泣き喚くのを辞めたい
泣くのにも体力を使うし、なんなら母親も疲労が溜まるだろうに…
また困ったことに、彼女の用事が終わったのか、常に抱き抱えられている…
暖かい。小っ恥ずかしい。眠い。滑稽。
やめろぉ!!背中をぽんぽんするなぁ!!
私はなぁっ…!!…んぁあ…ぅう…(ばぶ)
…転生だとするならば、恐らく人の子一生分は生きるのだろうし…初っ端から思い悩むのはやめようか…(腕の中でゆらゆら)
しかし怖いな…母親はなんだがギリシャ神話にでも出てきそうな布を纏っているだけの様にも見える…うーん父親もか…露出度が高い親っていう問題ではないぞ…?
ここはどこで…どういった場所なんだ…
あぁ〜胸を出すな〜!!どんな羞恥プレイだ…いや知ってるが…食事なのは知ってるけど!!やだぁお腹空いた…えぇん…。
困ったことになった。
私は「アウグスト・ポルツァーノ」という人間らしい。とてもしっくり来ない
そしてここはイタリア南部にある広い海と大きな山のある活気あふれる土地
そして…!
ローマ帝国の都市!!街ゆく人はみんな布を巻いてサンダル!!石造りの街並み!!
テレビどころか情報伝達は文通!!
ここは遥か昔むかーーしの世界!!!!
…の様に思える。
詳しくはまだわからないが明らかに私の知ってる文明より遥かに前の世代だろう。
都市が出来てから500年は歴史があると聞いたが、つまり500年程しか歴史がないわけで、魚と小麦で貿易を行う…あ、いやここはワインも作ってたな。でもそんな所だ。
そして元々感情のみで生きてきた私は食事が必要となった。これがまた厄介で、最初の方はこの土地のパンすら食べるのを拒絶したくらいだ…固形物を入れるのが厳しかった。
そんなアウグストは今年で7歳になる。つまり7年間私はこの少年として生きて来たわけだが、親や、水面や不恰好な鏡に映る自分を見る限り
「アウグストという少年の中に入った」訳ではなく
「私がアウグストという名前を貰って産み直された」の方が正しいのだろう。つまり前世を持って産まれって来ちゃった訳だ。
とりあえず自信を持って一つの命を謳歌できる様だ。
そう。自信を持てたのだ。
あれからしばらく、手を離されたとばかり思い悩んで、泣きじゃくって、嘔吐して…まるで本当に初めて堕とされた時の様な精神状態だったのだが、ふと思い立って自身の“チャンネル”を変えてみたのだ。するとどうだろう。かつての道化師。2m超えの細身の老人、しかもこの世界にまだ出ていないであろうスーツを着こなした“私”になれたのだ!!
感激したさ!そのまま歓喜溢れ母親の前まで飛び出しそうになったのは非常に危険だったが。思考も少しばかり肉体年齢に寄ってしまう様だ。
まぁそれでわかった事がある。
細身の姿、感情の味覚化などは私単体の力ではない。電波塔のあの椅子から引き継いだ力の為、例え私だけが異世界に移動しても、力は提供されない。つまり一般人に戻る…か死に絶えるかだろう。
ここが私のいた世界と同じ時系列にあるとは思えない、とりあえず異世界転生で間違い無いだろう。
つまりここは異界にして電波塔の能力範囲内なのだ。
私の電波塔は停止していない。
もしくはこの世界にある。
しかし電波塔は停止していなければならない。そうでなければあの無限世界から抜け出す事ができない。
消去法で言えば、電波塔は一度停止し、再度起動してこの世界にある。と言えるだろう。
では何故?
壊さず、しかし一度止めて、別世界に移動させねばならなかった理由とは?
…
元の世界で一体何があったのか
しかし、例え世界をまた移動するのだとしても、もし私を捨てていくのであるなら、わざわざ電波塔を移動する事はないだろう。
それとも塔だけ散り散りになる何か原因があったのか…なんにしろ、手を離されてはいないであろうと考えを持ち直せた
ただそれだけで、生きるのに自信が持てたのだ
なんて弱くなったんだろう
手を離されていないって希望で、心が持ち直せて
というか心がある時点で弱いのだ、諦めよう。
そんなこんなでとりあえず生きてる時点で集められるだけ情報は集めようと思えた。何はともあれ私は第二の人生を得れたのだ
どうせなら楽しく、そしてあの時に味わえなかった人生を噛み締めてみよう
誰もいない新しい世界で…
…参ったな。感情感度にも慣れないと良くない。すぐに鼻の奥がじわりと痛くなる。目頭が熱くなり雫が溢れる。私はこんなに泣き虫だったのか。そういえば小さな堕ちていない“私”は泣き虫だったな、ずっとぽろぽろ泣いていた。彼に笑って欲しくて。生きている実感が欲しくて、叱って欲しくて…
誰かが居ないとだめなのか
応えが無いとだめなのか
寂しがりだな
滑稽だな
笑ってくれよ
誰か…だれか…
ぼくのこえがきこえますか
しばらく生きて、私アウグストは成人し、親元を過ぎてから改名した
やはり私は「Con」が良い
しかし元の名を名乗るのは少しばかり違う気がする。僅かながらも捨てきれない希望が、私以外にもこの場所に転生している者はいないだろうかといった希望が微かに残っている為、私はあえて名前を変えよう。
コンスタンスを知る者は、あの世界の者だろう。誰か名前を呼んでくれる人はいるだろうか。
とはいいつつも「con」の名は意外と無い
私の所有脳内データベースにも、イタリア名の「con」は無い。姓と女性名はあるが…
まぁ…昔はヌルの所有していたデータベースにアクセスして瞬時に検索ができていた為、中々キレのいい思考回路であったが…今は私の中にある情報しかない。
他人の感情が味覚として感知し、人の思考を読み取る。
前世がある。
心身ともに変幻。
少し集中すれば空間湾曲。
そして名前を呼び、目線を合わせ、返答が返って来さえすれば仮想空間、過去変幻、思考ジャックなど…大抵の能力は使える様だ。
思考ジャックはものすごく体力を使う訳だが…ルイスの様にこじ開けたり、ファイヤドの様に発火させたりなど、元々出来なかった事はできない様だ。
…
二人の名を並べた時、思いついた名前がある。まぁルイスのポイントは無いが…
「…コンラード」
ドイツ名だが特に問題はないだろう。
本当にルイス掠ってないな。LでなくRだし
まぁ、仮名も仮名。一生分の名前だ
私は今日からコンラード。この私が、微かな希望に縋りついて生きていくのだ。
滑稽も滑稽、今まで幾度の他人の希望をちらつかせて堕としてきた?
だからこそ、過度な期待はしない。出来ない。
このままコンラードは一生を過ごし、死に絶えて終えても問題はない。
それはとても、演者として最悪な終わり方だ、罰としては中々相応しいだろう。
視聴者のいない舞台だ。批判も反応もない。
…そろそろかつての栄光だけを見つめる癖をやめた方がいいな。ただ虚しいだけさ。
この世界を見よう。
この…あの…古代文明を…
この街は非常におおらかだ。一応奴隷と主人といった身分的区別があったりするが、酷い扱いを受けている者は少ない。
水も中々綺麗で、酒飲み場には孔雀の肉なんかも並ぶ。葡萄畑は広大に広がり、ここのワインは美味い。水も土地も良いのだろう。
明らかに古い文明だが、元々の私の世界より生活環境は良いだろう。特に海が綺麗だ。目が焼けるほどの太陽光。水面に反射する光が街を照らし、山々や木々の木漏れ日が合唱する。この体になってから太陽光が平気になった。それでもあまり外には出たくないが…
なんら不満のないこの街だが…ただ困った事があると言えば性的欲求が多すぎる。
町を歩けば娼婦館。横を見れば娼婦館。客引きに、そこいらでおっ始める番供。性行為に抵抗がないのだろう。男であれ女であれ、身分も年齢も問わず誘うこの街は、いささか快楽都市といった所か。
まぁ私は儚げ美少年美青年らしいので…?沢山路地裏に誘われたりはしたが、街全体を見るとそこまで多い訳ではないのかもしれない。
まぁ時代も時代だ。遺体が転がっていたって気にする人は少ない。声をかけて来た人とはしばらく楽しめたよ。数名本当に楽しかった。やはり血は良い。
そんなこんなで命を手にかける事が多々あった訳だが、この世界は魂の在り方が少し違う様だ。見える人と見えない人に分かれる様だが、生物、特に人間は死亡した際、遺体の上に青白い炎が灯る。どうやらそれが“魂”らしい
そしてその魂を運ぶ者が存在する。
時々人じゃないものとすれ違うな…とは思ったがどうやらそれは正解で、大抵の人間には見えていない存在、地面より下、地下とは違う場所にいる、所謂モンスターの様な生物、人となんら変わりないが良く見れば半透明なのか色が薄いのか…といった人間、それより薄く、体が霧の様にゆらゆら消えかけている人間、そこら辺に転がる炎、時折空から降りてくる羽の生えた人間の姿をした何か…
しばらく観察してわかったのは、人間が死ぬと炎と化す、まれに炎ではなく、霧状になる
つまりこれらが“死霊”
下にいるモンスターは死霊を捕食している、魔物か、悪魔か、その類だろう。
羽の生えた生き物は死霊を抱き抱え、空へと登る、まぁ見た所天使と言ったところか?
色の薄い人間は…死霊を抱えて登るし、魔物と殺し合いをしている所を見た事がある。対魔物のなんかだろう、そんな死後の世界がはっきりとある世界の様だ。恐らく魂自体に意思はある。殺人事件が幽霊の回答によって無事解決!みたいな事が起きうる様だ。人殺しは生きにくい世界だ。私も死んだらあの炎になるんだろうか。嫌だな。みんなファイヤド君の頭の様だ。ふふ。
…どこかで読んだ書籍にあったな
死した魂は天界へ
天使はその魂と精神を極楽浄土の天界へと連れて行き、
死神はその魂と精神を天界へ送り、不浄なる肉体を捕食し、
悪魔は全てを喰らい尽くす。と信じられた
ならばあの色の薄い人間は死神だろうか、イメージとは少し違ったな、私の方が死神らしいぞ?(ドヤコン)
まぁいい
この場所の不満は性的欲求と死後の魂の明確さにより、快楽目当てで寄ってきた人間を適当に使い殺害するのは危険。と言ったところか
あぁあと、ここは地震が多い。この間も少し大きめの揺れが来て多少焦った。元々の世界であれば、私の歪曲能力がズレたか?程度で済むが…2個目の“繋がった世界”でも似たような揺れだったな。あの時は震源地などが明確だったから不安は無かったが。まぁ山のある街だ、プレート的に地震も起きやすいのだろう。案の定市民は大地の怒りとかほざいているが、仕方があるまい。まだ天動説を信じている世界だ。というか地動説のちの字すら出ていないのでは?私が唱えたらどうなるだろうか?何馬鹿なことを言っているんだで終わりそうだが…
他に何も困った事はない世界、私は何故ここにいるんだろうか?
不思議で仕方がない。この後何かあるのだろうか?本当に何もない転生なだけなのだろうか。私はモブなのだろうか…?
酷い揺れだった。寒い中、突き上げる揺れが街を襲った。街全体が崩壊するかと思った。記念すべき転生後の死は圧死になるところだった…そんなジョークはさておき、街は壊滅的だ、まだ生きている部分はある。が大抵割れて、崩れて。砕けたワインと血肉の匂いが混ざる。やっと出来た友人も瓦礫の下だ。皆必死に救出作業を行っているが私には見える。
夥しいほどの青い炎
正確な人数は把握できないが、恐らく下敷きになっている人は全滅だろう。かという私も半分ほど潰れてしまい、呼吸もままならない状態なので言葉すら発せられない状態で、死霊について発言できない訳だが。
こんな所で分かりたくなかったが、苦痛はどうやら快楽となる精神は刷り込まれている様だ。素直に喜べない状態だがな。
意外にも私はこの30年で思考が変わっていた様だ。母は無事だろうか?他の友は、店主は。そんな事を真っ先に考えていた。情を重ねるな…失って悲しいのは相手を知り過ぎているからだ。私は戻れない。世界が愛おしくてたまらないのだ。とてもちぐはぐな感情だ。寒くて仕方がない。
しばらくして、父も母も無事だと知った。布団の上でほっとした。私にもほっとする人の心があったのだな、いや今回付与されて生まれてきたのだから当たり前だが。
街は段々と復興している。失った市民は多い。無論、友も先生も、私の知り合いも半分以上は死んだ。
不思議なことに、天使と死神も姿を誤魔化し、復興を手伝う個体がいた。一応人間の味方…なのか?魂を上に運ぶだけではないらしい。ただ火事場泥棒の様にコソコソと魂を喰う悪魔もいる。この感じだと娯楽で食べているのではないだろう、魂とは悪魔諸君にとっての食事なんだろう。
…潰れた体の修復は遅く、ただ普通の人間よりは早いらしいが…動けない自分がもどかしい。なんとか声は出るが左半身はまだ動く様子はない、暇潰しに適度に傷を押して痛覚を味わい性欲を満たしている所を友人に見られた時はいかんせん焦燥感に駆られたが、理解ある子でよかった。よかったのか?…まぁ下手に騒がれるよりはいいだろう
人生静かにはうまくいかない…といった罰なのだろうか…?寧ろ痛覚が褒美だが。
友人を失うのは辛いが、今更私が悲しむ資格などあるのだろうか?とも思う
ただ少しだけ、何処か何か引っかかる要点がある。一体なんだろう。何が気掛かりなんだろう。冬が過ぎて、春が来るからだろうか?
あれから17年、だいぶ街は復興してきたがまだまだ不完全だ。父は寿命で亡くなり、母はそろそろボケ始めた。私の左腕はとうの昔に動かなくなっていたが幸い歩き回って活動できる様になっている。街はボロボロでも動いている。瓦礫の撤去、畑の整備、貿易の再構築、徐々に回復していく様を見るのは中々楽しいものがある。開拓ゲームにハマる理由がわかった気もする。だがまた最近頻繁に揺れる。次に大きな揺れが来る前に耐震性の建物を組まないとまた同じ被害が出る。人々の不安は大変美味だが、自然に対する畏怖に近い恐怖は些か胃もたれしてしまう。食べ飽きるほどに世界が不安で溢れかえっているのだ。
脳内データベースを引っ掻き回して建築や復興、医療に力を注いだ。少し落ち着いてから昼食中。何故こんなに手を貸すのだろう?と我に帰る。私がコンラードだからだ。と回答をつける
コンスタンスは笑うだろうな。それならそれでもいい。彼だって「随分落ちぶれたな」と笑うだろうか。笑ってくれるならいいさ。笑って欲しいのだから。
ふとため息混じりに空を見る
時期は9月中旬、午後1時だが心地よい風が頬を撫でる。夏場を超えて涼しくなってきた頃、最近は肌寒い風が多くなってきたというのに、今日は不思議と暑い
___ふと気がつく
今日は薄曇りだ。太陽が出ているから暑いわけではない。風は涼しく、むしろいつも通り冷たい
なのに
“地面が暑い”
心底肝が冷えた
何故気が付かなかったのだろう
必死にデータベースを漁る
ここは私の世界ではない
しかし
しかし
聞き慣れた名前が散らばっていたではないか
二つ目の繋がった世界
その場所で仕入れた情報だ
大地震から17年後
イタリア南部
ローマ帝国
山の名前はヴェスヴィオ山
この場所は____ポンペイ
気がつくのが遅過ぎた。あんなに時間はあったのに。いやしかし、過去にいるとは思わないだろう。古代文明の別世界かと。それでももう遅い。
歴史は動かなかった。
記念すべき初死は噴火した火山に呑まれ、一瞬のうちに死んだ。幸い熱風や酸素不足で我々の場所は苦痛なく蒸発した。これは遺体も残らないだろう。
ここから少し離れた場所に住んでいた彼らは火山灰に抱き抱えられ、数世紀後に型取られ永遠に残るのだろう。
あーあ、終わってしまった。
手を頭の後ろに組みながら寝っ転がる。
終わった
そう思っていた
___あれ?体がある?左腕も苦なく動く
周りを見渡せば一面青白い炎の海
私は?
霧状にすらなっていない
半透明だが、しっかりと認識できる体、これは、今まで見てきた魂と違う…?
「…死した所で、家族の元へは行けないって事かい…?」
震えた声が溢れた。そうか罰は続いているのか。私に死後の世界などない。極楽浄土には行けないとは思っていたが、地獄にすら居場所はない。私の場所は無い!あぁなんていう罰だろうか!
…不思議だ!死してなお、涙は溢れるのか。
この状態でどうしろというのだ。私に何を求めているのだ!この絶望か?これがお望みか?!笑えよ!!私はここにいる!!
私は…!!
酷く泣きじゃくっていた。泣いていても私を抱える母はもういない。茶化しに来る友も居ない。
いない。
ただ、魂を回収しにきたのであろう天使は来た。私宛てではないと知っている。
ただ、私がなんなのか聞いてみたいのだ。
涙を拭き、立ち、天使の元へ行く
ロングヘアーの綺麗な彼女は私を一目見て驚く
天使「…彷徨う魂」
コン「さ…彷徨う…?」
出会って早々の発言に戸惑う、無論彼女の方が戸惑っている様だが
天使「…貴方は随分と自我がしっかりしているのね…死んで早々でしょう…よく立派に立って会話が出来るまで…」
褒められているのだろうか?死んでることに気がついていないと思われているのだろうか?
天使「…魂が…無い?」
コン「はい?」
天使「あ…えっと…ごめんなさい。少し待って、説明するわ」
…お互いイレギュラー過ぎたのだろうか?酷く困惑している。余りの混乱様で涙が引いてしまったよ。感謝しなければ
ベロニカ「…私は天使ベロニカ。貴方、名前は?」
コン「…私は…幼少期はアウグスト、成人してから、コンラードと名乗っていたが…」
ベロニカ「アウグスト…アウグスト・ポルツァーノ…コンラード…」
何処からともなく出した書類を見て呟く彼女、素晴らしい。苗字までは名乗っていないのに関わらず、正解している。あの書類には人間の情報が書かれているのだろうか?
ベロニカ「…貴方。この世界の魂では無いわね」
コン「!」
ベロニカ「珍しいわね…でも聞いたことはあるの。異界の彷徨う魂。魂亡き魂。あの子が連れてきてしまったのね…」
コン「…聞いた…事がある…とは…つまり私以外にも異界の者が…?」
ベロニカ「…えぇ。私自身見たのは貴方が初めてだけれどね」
これはなんていう事だ!私の居場所が無かったのは“私”だからといった訳ではなく。世界規模で違っていたため、帰る場所が定義されていないだけだったのだ!
16色クレヨンの中に色鉛筆を仕舞おうとしても、入るわけがないもの!
それどころでは無い。
“私以外の異界の魂が存在する”
どの様な世界かは分からないが、ルイス達である可能性はある!彼も来ているかもしれない!会えるのかもしれない!
ベロニカ「…大丈夫?」
コン「…あ…あは…申し訳ない…そう…私だけ…私だけが…ここにっ…いるのだと…」
あぁ駄目だ。女性の前ではしたないぞコンラード。泣いちゃ駄目だ。まだ希望に縋るな。裏切られた時に痛いのだから。泣いちゃだめ。だめ。
ベロニカ「元の世界に残してきたものがあったのだな。寂しいのだろう。全ての魂に安らぎ在れ」
だめ。だめ。わたしを抱えないで。
子守唄は魂を揺らす。
だめ
縋ってしまう
やだ、やさしくしないで
あぁ
気がつけば酷く長く泣き叫んでいた。
目が溶けてしまう様だ。
ベロニカ「落ち着いた?」
コン「…お陰様で」
お陰様でだいぶ乱れましたねぇ…
コン「…ズッ…今の唄は?」
ベロニカ「鎮魂歌だ。そして。“世界を紡ぐ唄“」
コン「紡ぐ…」
ベロニカ「貴方の世界と私達の世界が重なれば良いな…と、私は”繋ぐ”事は出来ないが、繋ぐための糸は“紡ぐ”事はできる。後は誰かがこれを繋げれば、きっと。貴方のあるべき場所へと還れるでしょう」
コン「…成程…」
ベロニカ「貴方はこの世界の魂では無いため、天界を解しての魂のサイクルには当てはめる事が出来ないでしょう。つまり規定に乗っ取った転生方法は取れず、このまま彷徨う事になるでしょう」
コン「…当てはまらないという事は良くも悪くも自由…ですね?」
ベロニカ「…ふふ。そうです。今回貴方は現界し、人生を過ごした。つまりこの世界には適応しています。私は貴方を連れて行く事は出来ませんが、同時に悪魔も貴方を捕食する事が出来ないし、貴方は悪魔にならない。この広大な世界を歩き回れる。逆に言えば終わりはない。という事です」
コン「地平の終わりなき世界など、深淵に堕ちるのと比べてしまえば楽園ですね」
ベロニカ「もしかしたら、貴方には“精神”が残っているのですから、“肉体”と“魂”があればまた、転生が可能かもしれません」
コン「三位一体…ですか。面白い。では私はこのまま旅に出ましょうかね…貴方が紡いでくださった糸が、誰かを絡みとるかも知れない。私の舞台は終わらないようですから」
ベロニカ「そう!元気になれてよかった。大丈夫?ここにいる人達は全て、貴方の知り合いでしょう?」
コン「えぇ、なので彼らをどうかよろしくお願いします。…ベロニカ様?」
ベロニカ「ベロニカでいい。私は上に立つ様な天使ではないのだから」
コン「ではベロニカ。貴方のご好意に感謝して…またいつか出会う時があれば」
ベロニカ「貴方は随分と面白い人だな。今度は…いや、貴方の人生に幸あらん事を」
コン「…それでは」
これほどまでに希望が見えた事があっただろうか。被害妄想で自ら堕ちる癖はやめた方がいい。そうだ。私は死ねないのだ
肉体が死のうと魂が死なないなら、ずっと、ずっと探せば良いだろう。
彼がいる未来を。見つけてしまえば良いのだ
彼がいない未来を。
さて
さて
落ち着いて整理しよう
一通り見た状態では、ここは2個目の“繋がった世界”に近い世界の過去、または裏、ifの世界線だろう。
繋がった世界では、噴火は夏場に来ている。
少しのズレかもしれないが、ここでは秋だ
例え同じ過去を辿っていたとしても、まず私がいる時点で変わるはずだ
変わらなくても構わない。私は死なないのだから。歴史を楽しみながら彼らを探そうか
あぁ楽しくなってきた!あぁ感情とは忙しいな
歴史通りに動くので在れば少しは対処しがいがある。どうなるんだろうか
楽しみだ!
随分歩いたな。霊体は疲労を感じないのか
このまま行けば海を渡るか、大陸に行くか…空は飛べるのかな。色々やって…みよ…
…うん…?意識が…飛ぶ…な…n…
目が覚めたら、どこかの布の上に寝かされていた。
んぎゃあ
嫌な予感。ただ最初の場所とは違う様だ
手を…出してみる…
あぅ
えっと
そりゃそうか
転生は赤子からだよなぁ!!!
えーーん!!ここは何処ですか!!
ばぶーーーー!!!(やけくそ)
【ED】