かの有名な「アーサー王物語」より生まれし 異なる世界で繰り広げられた、崩壊の物語 【剣王物語】 古い書物だ ページは酷く脆く、しかして物語は紡がれる __________ はるか昔、剣によって選ばれた王が作る王国があった やがて内戦が起き、国は滅びた。 かつて無名であった、しかし今は最高峰の宮廷魔術師であったマリューは、その現状を目の当たりにして嘆いた。 この国は滅びたのだ けれどそれが許せなかったマリューは 彼らの為、彼らの跡を継ぎ、やがて7つの聖杯を集めた 聖杯にかける望みは一つ 「世界のやり直し」だった マリューは妖精族であった自身の不死性を生贄に捧げ、やがて世界を巻き戻す。 この王国が崩れ去る前に マリューが目を覚ましたのは、王を選ぶ剣の前。 かつてマリューは自身が王となる事を夢見てその剣に手を出した しかし引き抜けなかった だが、この剣自体を分解して実体化魔法をかけ、さらにその子を弟子化してしまえば王に一番近い王の側近になれるのでは無いだろうかと考え、実行した。 そうしてマリューは、多ければ多いだけ良いだろうとその剣を5人に分けたのだ それが王国崩壊の始まりだった。 分たれた5人のうち、1人が謀反を起こしたのだ やがて家族は崩壊、一欠片を失った刃は力を失い、まるで自然消滅するかの如く…王国は崩れ去っていった。 けれどマリューは諦めきれなかった。 その生活が、とてつもなく愛おしかったのだ。 結果マリューは今度は聖剣を1人だけとして生み出した。 名を「ルドルフ」 5兄弟の長男、我が家族、“私”の意思が含まれた個体の名前だ ルドルフは昔と変わらない姿で、昔と変わらない心を持っていた わかっている。「彼」は別物だ、崩壊した世界のルドルフではない けれど始まりは同じである。 同じように育てれば、謀反者がいない状態で同じようなルートを通れば… また同じような家族になれるであろう マリューは小さなルドルフの頭をそっと撫でた。 やがてマリューは早々に最高魔術師となった 何せこれから起こることが大抵は知っているので、預言者としても名を馳せたのだ 本来の魔術を使うまでもなく、その名は響いていった やがて想定通りに王族が来る ルドルフを剣に戻し、裁定を始める 無論、その場で選ばれるのは小さな王子、ユーサーである。 こうしてユーサーとルドルフは出会い、王宮が作られ… ユーサーは王に、ルドルフは愛剣として仕え、宮廷魔術師のマリューはもう一度家族を手にした 多くは求めないさ その3人で…この国を作ろう けれどマリューは忘れていた。 かつての王宮が崩れる前に、ずっとずっと前に、ユーサーは殺害されるのだ。 忘れていたのではない、その時その場にいなかったのだ。 故にマリューは知らぬまま、またもや敵対国にユーサーは暗殺された。 そしてルドルフは王を殺された怒りと悲しみで絶望の波に飲まれ、敵国兵士を滅ぼして… やがて泣きじゃくりながら”帰って”きてたのだ。 でも、どうしてルドルフが帰ってこれたのかをマリューは知らなかった。 その日その時、同じように事が起き、同じように悲劇が襲い、マリューは同じように仕事を終え帰宅した。 全てが前回と同様だった ただ一つ違ったのは、ルドルフが帰ってこなかった事だった 嫌な予感がしたマリューは、ユーサーが殺された地下に大急ぎで駆け降りていった 敵国の兵士は死体となって転がっていた ユーサーの遺体を抱えながら、悪意に飲まれて錆びていたルドルフが、そこに居た。 その時初めて気がついたのだった。 彼は、ルドルフは“弟”を愛していた 最愛の王を失った悲しみで自我が飲まれ崩壊しようとも…残された弟達はどうなるのか?と踏みとどまれた 私が居なきゃいけない。と心を支えられていた だからあの状態でも帰ってこれたのだった しかし今回はそれが無かったのだ。 マリューは愕然とした 慢心していた己を呪った もう戻ることは出来ない、私は不死では無いから 泣きじゃくりながらマリューは、ルドルフを剣へと戻した 錆切った剣は瞬く間に壊れ、ユーサーの上に降り注いだ マリューは全てを諦めた 禁句である崩壊魔術を解き放ち、全てを焼き尽くした 次なる王、「アーサー」が来るより前に この世界と、かつての世界の書物(データ)を焼き消した そしてマリューも、2人と共に死に絶えた。 やがて雨が扉を叩く音で、マリューは目を覚ました 目覚めた空間は、まるで重力のない水の中 淡く暗い世界は、寂しさを含んでいたが、寒くは無かった ここが死後世界か。 マリューはそう考えた でもどうして目覚めたのか、辺りを見渡して驚愕した 燃やし尽くしたはずの書物が、記憶が色鮮やかに鮮明に残っていたのだ 全て消したはず、何も残っていないはず… どうして“残って”いるのか …そう。「有る」のでは無い。 「残っていた」のだ、私の中に 消せない『書物』…それは『記憶』 無論失ったものは多かった、でも残しておきたい世界があったのだ 5人と2人で並ぶ…その絵は消せなかったのだ 残してあったんだ …これは私の罰だ。 消して逃げる事など出来ないのだ そう思っていた矢先 開いていたドアの先から“お話”が見えた 彼らの世界もまた、崩壊していた でも彼は、逃げてはいなかった 『転生』 そんな言葉が響いていた 彼らの道筋を、つい癖で私は「書物」にしていた そして道を見出した 転生。生まれ変わる事 それはこの悲劇を変える道標になる 彼らの作った術式を借りよう… …彼らの術式ですら、供物が必要なのか 供物は…“螺旋”となる対の魂は…そうだ。 私の魂を使ってくれ…! そうしてルドルフとユーサー、この2人がもう一度…もう一度ちゃんとした人生を歩める様に… 消すことのできなかったこの書物を 彼らの思いを、希望を、願いを 全て生贄に捧げよう! 私は魔術師、魔の者だ、全ての悪行を背負うのは私1人が相応しい だから、だからせめて… うちの子達は救っておくれ。 黒き聖杯は目を覚ました ええやん。純粋でこの上ない美しい願いや まだ正式な転生行っとらんけどな?ワイももうちゃっかり悪魔や〜 せっかくやし、いっちゃん最初にお願い事叶えたってもええで そのかわりなんやが、通常じゃ命奪うんやが…そりゃ勿体無いやん?せやからな? その書物、全部おくれや したらおまんらは螺旋ちゃう魂に、至って普通に人生歩めるようにしたるわ どや?いっちゃん最初の、悪魔との契約や ____いいだろう。 (しばらく空白が開いたのち、手書きで文字が書かれている) 転生完了、私は悪魔に ユーサーとルドルフは人に 他は転生できなかったようだ ここからこれから、あの国へ 第三の人生を歩みにいく。 さようならアヴァロン こんにちは螺旋の世界 我らはここに生きながらえる
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